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スポーツビジネスコラム

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New Mediaを取り込め!〜Online Videoが変えるスポーツビジネス(2007.05.18)

 2007年5月14日、日本のプロ野球パシフィック・リーグが、6球団による共同出資会社「パシフィックリーグマーケティング(PLM)」を設立する事を発表した。この会社は6球団が協力し合い、リーグ統合型のビジネスを行うことで、リーグ全体の新興を図ることが目的とされている。この新会社PLMが行うビジネスで注目されるのが、パソコンや携帯への動画配信事業である。携帯向けにはすでにオリックスを除く5球団の共同事業で「プロ野球24」(http://www.proyakyu24.com/)を有料配信しているが、今後はPC向けサイトにおいても、6球団が連携して質の高いサービスを安定的に供給していくことを考えているということだ。ラジオ、テレビにつぐ新たなメディアである動画のネット配信とどのように関わっていくかは、今後のスポーツビジネスの発展の大きなポイントになるだろう。海の向こう、アメリカ・メジャーリーグでは、日本に先駆けて既に、この新しいメディアを戦略的に取り込み、大成功を収めている事例がある。

 MLBAM(MLB Advanced Media)は、2000年6月にMLB全30球団の出資によって設立された、MLBのインターネット部門を担うネットビジネス専門の企業である。MLBAMの2006年の売上高は3億ドル(約360億円)で、わずか6年の間にMLBで最も収入の多いニューヨーク・ヤンキースの2億6千万ドル(約312億円)をも上回る規模に成長している。

 このようなMLBAMの大成功の理由に、ネットでの映像配信(Online Video)を、戦略的にいち早く取り込んだことが挙げられる。これまでも、テレビやラジオなどといった新しいメディアの出現は、スポーツビジネス界に大きな影響を及ぼしてきた。そして今、このOnline VideoというNewメディアの台頭が、スポーツ業界の様相を大きく変えようとしているのだ。今回のPLMの取り組みも、その大きな変化の中において、非常に重要な出来事といえよう。今回のSMCレポートでは、いち早くこの新たなメディアを取り込み、その魅力をうまく活用したMLB Advanced Media (MLBAM)についてレポートすることで、Online Videoという新しいメディアがスポーツ界をどう変えようとしているのかについて検証していく。

【MLB.com】

 まず、Online videoというメディアの大きな特徴として、ターゲットマーケットの広さとコンテンツの豊富さが考えられる。テレビという特定の地域や人に向けられて発信されるメディアから、Onlineで世界中に繋がるインターネットというメディアへの転換は、視聴者の全国化、さらには国際化を可能とした。さらに、On demandという視聴形態をとることにより、過去から蓄積されている膨大な量のコンテンツを視聴者にダイレクトに提供できることになった。

 MLBAMはこれらの特徴を大いに活用して、同社が運営する「MLB.com」というサイト内に、豊富な映像コンテンツを用意し、2006年には、スポーツウェブサイトとしては、Yahoo! Sportsなどのニュースサイトに次いで第5位の、4億を超える累積訪問者数を獲得した。

MLB.TV

 MLB.comの映像コンテンツの中心的なサービスとして「MLB.TV」がある。このサービスは、ストリーミング機能を利用し、インターネットを介して試合をライブで配信、また過去の試合も日程やチームごとに整理され、いつでもOn demandで視聴できるようになっている。月額$14.95(約1,800円)、年間$79.95(約9,600円)で提供されるこのサービスには、現在30万人以上の契約者がいるといわれている。

 このMLB.TVの最大の魅力のひとつが、「Out-of-Marketゲーム」と呼ばれる、その地域では放送予定の無い他チームの試合がライブで観戦できることである。地域のファンベースを重要視するMLBでは、以前のSMCレポート(ブラックアウトルール,2006,1,11)でも紹介されているように、本来地元のチーム以外の試合がその地域でTV放映されることは非常に少ない。例えば、サンフランシスコで、ボストン・レッドソックスの試合をTVで見るためには、ケーブルテレビのComcast、もしくは衛星放送のDirecTVと月額約$50で契約した上で、さらに「Out-of-Marketゲーム」が見られるExtra Inningsというパッケージプランをオプションとして購入しなければならないのだ。それらと比較しても、MLB.TVは金銭的にも安い。またこのサービスは、アメリカ国内はもちろん、海外からの視聴も可能で、これまでMLBが視聴できなかった世界中にいるMLBファンに視聴の場を与えている。

 このサービスで注目すべき点は、Out-of-Marketのゲームのみがライブ配信されている点である。裏を返すと、In-Marketのゲームはライブ配信されていないのである。例えば、サンフランシスコで地元テレビ局が放映しているジャイアンツの試合は、MLB.TVではライブ中継が見られなくなっているのだ。これは大きな収入源ともなっている既存のメディアであるテレビへの配慮であり、既存のメディアの代替としてではなく、新しい視聴形態を提供する+αのメディアというポジションを築こうとしていることを示している。

MLB.TVでは、Out-of-Marketのゲームがライブで視聴できる

On Demand

 MLB.comの映像コンテンツでもう一つ注目したいのが、On Demandでの過去の試合の視聴サービスである。このサービスによって、スポーツ映像の新しい視聴スタイルが提供されている。例えば、Condensed Gameと呼ばれるコンテンツでは、攻守交替や打者が見逃した投球などを全て省いて約10分前後に濃縮した映像が視聴できる。また、Highlightsでは更に短く、重要なポイントだけを約4分前後にまとめた映像、Top playsでは「3回表、イチローのレーザービーム」などといったタイトルのついた好プレーを選んで視聴できる。

 また、これらの映像は、チームや日程、選手名、場面ごとにアーカイブで整理されており、まさにOn Demandで、簡単に見たい試合、見たい選手、見たい場面を探すことができるのだ。Baseball’s Bestというコーナーでは、過去60年以上に亘ってストックされてきた映像の中から、名勝負や伝説的な試合も視聴することができる。

見たい場面をメニューで選んでいく事ができる

【他スポーツへの拡大】

 このようにMLB.comを成功させたMLBAMが更に画期的なのは、この成功を受け、他のスポーツや、業界にまでも事業を広げている点である。現在では、MLS(メジャーリーグサッカー)の公式サイト「http://web.mlsnet.com/index.jsp」の他、NYPD(ニューヨーク市警)やFDNY(消防署)など、ニューヨーク市に関するグッズ販売のサイト「http://officialnycshop.com/index.asp」や、アメリカフィギュアスケート協会のウェブサイト「http://www.icenetwork.com/index.jsp」までも手掛けている。フィギュアスケート協会のサイトでは、MLBと同様のビジネスモデルが用いられ、1シーズン$29.95(約3,600円)で大会のライブ映像やOn Demand Videoの視聴が可能となっている。これまで、スポーツの枠を出ることが少なかったアメリカのスポーツ業界において、この積極的なビジネスモデルは、注目に値する動きである。

officialnycshop.com(左)とicenetwork.com(右)

 もちろん現在では、MLBだけでなく他のスポーツ団体もOnline Videoへの進出には積極的で、NBAも先日、そのオフィシャルサイト、NBA.comの中に、"Video Download Store"を設置。ここでは2007NBA Playoffの試合の映像を有料でダウンロードできるようにした。全試合が視聴できるFull Playoffが$79.99(約9,600円)、自らチームなどを選べるFavorite seriesが$12.99(約1,600円)、 一試合ごとのIndividualが$2.99(約360円)といったサービスがある。NBAは、昨年のPlayoffで既にこういった動画配信に関してAppleと契約を結び、iTunesに配信するというサービスを行っていたが、今回は"経済的に考慮した結果"という理由で、NBA自らが、そのウェブサイトの中に、独自のOnline Video配信のサービスを構築した。NBAはこれをひとつのステップとし、今後もOnline Videoの配信を増やしていく方針であるという。

【新たなフェーズに入ったスポーツビジネス業界】

 このように、MLBAMの例だけを見ても、Online VideoというNew Mediaはこれまでのスポーツ業界にはなかった、新たな変化をもたらしている。ファンにとっては、新しい視聴形態や新しい視聴スタイルが提供され、チームやリーグにとっては、新しい収益源が出現した。更にはスポーツを軸に他業界にも事業を展開するなど、ビジネスの枠も広がっている。

 他のエンターテインメントと比べ、時間が長い、試合時間が読めないなど、「時間」という概念で不利と言われるスポーツ業界に、Online Videoという新しいメディアは一石を投じ、様々なニーズ(時間帯、時間の長さ、場所、好み)に応えようとしている。日本においても、プロ野球の視聴率低下が大きなニュースとして取り上げられているが、これは人々の行動パターンや嗜好の変化による所も大きいと考えられる。日本中が同じ時間にテレビの前に座り、同じ番組を見る。といった状況を作るのは非常に難しくなってきているのだろう。Online Videoに限らずテクノロジーの進化は、今後もスポーツ界にも様々なサービスの可能性を提供してくれる。今後はますます、最新のテクノロジーの動向を伺いつつ、それを取り込むことで、時代にあった、スポーツの新しい楽しみ方を提供することが必要とされる。スポーツビジネス界も新しいフェーズに入ったと言えるのではないだろうか。

選手ブランディングはWebが決め手!〜技術の進化と選手サイト (2007.04.05)

Webの進化とアスリート

 近年、インターネットに関する技術の進化は更なるステージに突入しており、新しい潮流として「Web2.0」という言葉をよく耳にする。一言で表現すると、それは「ユーザー参加型」の時代、といえるのだが、この変化を起こした最も大きな要因は、誰もが簡単にウェブの世界に参加できるようになった点ではないだろうか。これは、スポーツアスリートとウェブの関係でも同じである。ブログやソーシャルネットワーキングサービス(SNS)などに代表される技術の進化はスポーツアスリートと彼らを取り巻く環境にも大きな変化を起こしている。

 つい数年前まで、アスリートのウェブサイトといえば変化のない、自己紹介的なサイトが多く、更新頻度も極めて低かった。そもそも、積極的に自らのウェブサイト作成に前向きなアスリートも少なく、ウェブサイト作成の際には、ウェブサイト作成の意義をアスリートに説明する所から始めなければならない場合も少なくなかったのだ。

 しかし今日では、アスリート達はオンラインの世界へと積極的に参加する傾向にある。日本においても、プロ野球・東京ヤクルトスワローズの古田敦也選手兼監督や、大相撲・東前頭四枚目の普天王関のブログは有名である。ある種人間味を超越した一流アスリートの日常や、プロの世界の舞台裏を垣間見る事ができることは、ファンの増加やファンロイヤリティの向上にも繋がっている。

 こうした動きは、言うまでもなく、日本だけのことではなく世界的な流れである。そこで今回のスポーツビジネスコラムでは、スポーツビジネス先進国であるアメリカにおける選手サイトの状況についてレポートすることにする。

ファンを集めるWebコンテンツ

 先に、日本における古田選手や普天王関のブログについて触れたが、NBAワシントン・ウィザーズに所属しているギルバート・アリーナス(Gilbert Arenas)も個人のブログを公開している。彼は毎週ブログをアップすることで、サイトを立ち上げて以来、毎月200,000人のビジターを集めている。他にもシカゴ・ブルズのベン・ゴードン(Ben Gordon)やロサンゼルス・クリッパーズの(Chris Kaman)、ダラス・マーベリックスのジェリー・スタックハウス(Jerry Stackhouse)のブログがリーグサイトであるNBA.com内でもフィーチャーされている。

ギルバート・アリーナスのブログ

 また、イアン・ソープを倒した男として知られる、アメリカ競泳界のスター、マイケル・フェルプスは、他のオリンピック選手などと共に、SwimRoom.comというネットワーキングサイトを立ち上げている。ここでは、数多くの選手のブログを紹介し、インタビュー映像などをポッドキャストとして提供することで、個々の選手としては集客が難しい競泳選手サイトに注目を集め、Webコンテンツとしての価値を上げることに成功している。

SwimRoom.comのトップページ

 この他にも、NBAのスーパースター、レブロン・ジェームズはMSNと連結したサイトを立ち上げ、ドウェイン・ウェードはグーグルとパートナー契約を交わすなど、インターネット業界の専門家達と手を組んで、質の高いウェブサイトを構築しようという動きもでてきている。

レブロン・ジェームズのフラッシュを使ったサイト

Webによるブランディング

 このように彼らアスリート達が自分のウェブサイトに積極的になっている理由は何なのだろうか。まず一つあるのは、即効性のあるプロモーションツールとしての意味合いである。ブログなど、簡単に自己を表現できる場が与えられたことにより、ファンとのコミュニケーションが深められ、選手へのロイヤリティ向上に繋がっているのである。

 もう一つ大きな理由は、利益を生み出すツールとしての意味合いである。ブログや映像など、ウェブコンテンツが簡単に更新できるようになった今では、コンテンツが充実されたばかりでなく、更新頻度も上がっている。そうすると、そこに集まる人の数も回数も増加する。これはビジネスとして選手サイトを見た場合、とても重要なことである。そこを訪れる人々は、同じ興味を持った人々にセグメントされるため、グッズなどを販売するのに適している。オンラインストアを設置し、商品などの販売をすることで利益を得る事ができる。人が集まればそれだけ売れる商品も増えるわけだ。先にもグーグルとのパートナー契約の件で触れたドウェイン・ウェードは、公式サイトで、オリジナルグッズだけでなく、USA代表チームや出身大学のレプリカジャージも販売している。

ドウェイン・ウェードのオンラインショップ

 また、そうした一定のセグメント化された集団が増加することは、グッズ販売としての利益を生み出すだけでなく、1.そのページへの広告価値を高め、2.そのアスリートとすでに契約している企業にとっては、更なる露出が見込めることとなる。それは、その選手の広告塔としての価値の上昇を意味し、3.新たなスポンサー契約に繋がる可能性もある。

 こうした認識が広まってきたことにより、選手やその周りにいるエージェントやチームなどが選手サイトに積極的になってきているのである。とかく最新技術に疎く、ITなどの最新技術を敬遠しがちなスポーツ業界関係者も、そのようなことは言っていられない時代が来ていると言えよう。

開幕戦を盛り上げろ!〜メジャーリーグのオープニング・ギブアウェイ (2007.02.28)

 スプリング・キャンプが始まり、徐々に盛り上がり始めたメジャーリーグ。今年も松坂、井川、岩村、桑田と日本人選手が海を渡り、彼らの応援に大勢の日本人がアメリカのボールパークへ足を運ぶことだろう。
ボールパークに行くと、その空間の醸し出す本場の雰囲気にまず圧倒されるのだが、観客を集めるためにチームが行うプロモーションにも目を見張るものがある。入場の際に配布されるギブアウェイ。日本でも定着し始めているが、メジャーリーグではスポンサーと組んで様々なグッズが戦略的に配布されている。
そこで今回のSMCレポートでは、メジャーリーグ30球団の開幕戦で配られるオープニング・ギブアウェイについて調査し、レポートすることにする。

メジャーリーグ全30球団の内、23球団が開幕プロモーションの情報を公開している。それらの開幕プロモーションで配られるギブアウェイを見てみると、23球団中、17球団が同じグッズを配布する予定となっている。そこまで多くのチームが配布するグッズは何かというとそれは、マグネット・スケジュールである。
なるほど、1年の始まりで試合の日程を知ってもらうには最適だ。と納得する人も多いかと思うが、ここで注目したいのは、ただのスケジュールではなく、マグネットになっている点である。チームはスケジュールをマグネットにすることで、家の冷蔵庫に付けてもらう事を狙っているのだ。冷蔵庫は、母親が料理を作る時、子供がアイスクリームを取り出す時、父親がビールを飲む時、家族の全員が毎日必ず1回は利用する電気製品と言ってもいいだろう。そんな冷蔵庫にマグネットで貼れるようにすることで、チームのスケジュールを毎日目にしてもらうことができるのだ。

マグネット・スケジュールの他には、チームフラッグや、カーフラッグ、バンダナ、キャップといった、応援グッズが多く見受けられる。年間を通じてのチームのプロモーションにつながるグッズを配ろうという狙いなのだろう。

続いてギブアウェイに付いているスポンサーであるが、その企業名を見ていくと様々な業種の企業が名を連ねているが、いくつかのチームについて面白いことに気付く。それは、スタジアムの命名権スポンサーがオープニングギブアウェイのスポンサーにもなっている例が見受けられる点だ。スタジアムへ足を運ぶきっかけとなるスケジュールへの露出は、命名権を買うスポンサー企業にとって、非常に重要なアクティベーションとなるわけだ。チームとしても大事なスポンサーをオープニングプロモーションのスポンサーに付けるようにしている事もあるのだろう。

最後に配られる個数を見てみることにする。各チームの配布対象者を見ていくと対象が来場者全員であるチームが多く見られる。普段は先着10,000人や20,000人など人数制限を設けることが多いのだが、シーズン最初のプロモーションとなるオープニングギブアウェイについては、来場者全員や先着50,000人など、来場するほとんどの人に配られることが多いのだ。こうすることで、より多くの人にチームスケジュールを知ってもらえる他、チームの重要なスポンサーの露出を増やすことにもつながるという事だ。

何気なくもらうギブアウェイであるが、そこにはチームやスポンサーの巧みな戦略が織り込まれていることに注目すると、また違った面白さに気付くかもしれない。

【参考資料】MLB各球団のオープニング・ギブアウェイ

■ アメリカン・リーグ

【シカゴ・ホワイトソックス】
* ギブアウェイ:     マグネット・スケジュール
* 対象:         来場者全員
* スポンサー:      ペプシ (Pepsi)

* ギブアウェイ:     カーフラッグ
* 対象:         来場者全員
* スポンサー:      U.S.セルラー (U.S. Cellular)

【クリーブランド・インディアンズ】
* ギブアウェイ:     マグネット・スケジュール
* 対象:         来場者全員
* スポンサー:      ジャイアント・イーグル (Giant Eagle)

インディアンズのマグネット・スケジュール

【カンザスシティ・ロイヤルズ】
* ギブアウェイ:     マグネット・スケジュール
* 対象:         先着40,000人
* スポンサー:      スプリント・ワイヤレス (Sprint Wireless)

* ギブアウェイ:     ラリー・バンダナ
* 対象:         先着20,000人
* スポンサー:      ロバーツ・デアリー (Roberts Dairy)
ロイヤルズのバンダナ

【ロサンゼルス・エンゼルス・アナハイム】
* ギブアウェイ:     ラリー・バンダナ
* 対象:         来場者全員
* スポンサー:      エーティー・アンド・ティー(AT&T)

【ミネソタ・ツインズ】
* ギブアウェイ:     マグネット・スケジュール
* 対象:         先着40,000人
* スポンサー:      ターゲット(Target)

* ギブアウェイ:     ベースボール・キャップ
* 対象:         先着10,000人
* スポンサー:      WFTCテレビ(WFTC TV)

【オークランド・アスレチックス】
* ギブアウェイ:     マグネット・スケジュール
* 対象:         先着32,000人
* スポンサー:      なし

【シアトル・マリナーズ】
* ギブアウェイ:     マグネット・スケジュール
* 対象:         来場者全員
* スポンサー:      オー・ボーイ・オベルト(Oh Boy! Oberto)

* ギブアウェイ:     マグカップ
* 対象:         来場者全員
* スポンサー:      チェッカーズ(Checkers)

マリナーズのマグネット・スケジュール

【タンパベイ・デビルレイズ】
* ギブアウェイ:     マグネット・スケジュール
* 対象:         来場者全員
* スポンサー:      トロピカーナ(Tropicana)

【テキサス・レンジャース】
* ギブアウェイ:     マグネット・スケジュール
* 対象:         21歳以上の来場者
* スポンサー:      バドライト(Bud Light)

レンジャーズのマグネット・スケジュール

【トロント・ブルージェイズ】
* ギブアウェイ:     マグネット・スケジュール
* 対象:         先着50,000人
* スポンサー:      トロント・スター(Toronto Star)

ブルージェイズのマグネット・スケジュール

■ ナショナル・リーグ

【アリゾナ・ダイヤモンドバックス】
* ギブアウェイ:     ピンバッジ
* 対象:         先着50,000人
* スポンサー:      サークルK(Circle K)

* ギブアウェイ:     ダイヤモンドバックスTシャツ
* 対象:         先着50,000人
* スポンサー:      ヒーラ・リバー・カジノ(Gila River Casinos)

【シカゴ・カブス】
* ギブアウェイ:     マグネット・スケジュール
* 対象:         21歳以上の先着30,000人
* スポンサー:      なし
【コロラド・ロッキーズ】
* ギブアウェイ:     マグネット・スケジュール
* 対象:         来場者全員
* スポンサー:      キング・スーパーズ(King Soopers)

【フロリダ・マーリンズ】
* ギブアウェイ:     マグネット・スケジュール
* 対象:         来場者全員
* スポンサー:      なし

【ヒューストン・アストロズ】
* ギブアウェイ:     ラリー・タオル
* 対象:         先着30,000人
* スポンサー:      ギャリー・ファーニチャー(Gallery Furniture)

【ロサンゼルス・ドジャース】
* ギブアウェイ:     マグネット・スケジュール
* 対象:         先着50,000人
* スポンサー:      USバンク(US Bank)

【ミルウォーキー・ブリュワーズ】
* ギブアウェイ:     マグネット・スケジュール
* 対象:         来場者全員
* スポンサー:      エディーズ・アンド・ピッキン・セーブ(Edy’s and Pick’n Save)

【フィラデルフィア・フィリーズ】
* ギブアウェイ:     チームフラッグ
* 対象:         来場者全員
* スポンサー:      モデルズ・スポーツ・グッズ(Modell’s Sporting Goods)

フィリーズのフラッグ



【ピッツバーグ・パイレーツ】
* ギブアウェイ:     マグネット・スケジュール
* 対象:         来場者全員
* スポンサー:      ピー・エヌ・シー(PNC)

【サンディエゴ・パドレス】
* ギブアウェイ:     キャップ
* 対象:         来場者全員
* スポンサー:      サイキュアン・リゾート&カジノ(Sycuan Resort & Casino)

パドレスのキャップ

【サンフランシスコ・ジャイアンツ】
* ギブアウェイ:     カレンダー
* 対象:         先着40,000人
* スポンサー:      なし

【セントルイス・カージナルズ】
* ギブアウェイ:     マグネット・スケジュール
* 対象:         21歳以上の来場者全員
* スポンサー:      ブッシュ・ビール(Busch Beer)

【ワシントン・ナショナルズ】
* ギブアウェイ:     ナショナルズ長袖Tシャツ
* 対象:         来場者全員
* スポンサー:      コムキャスト、MASN(Comcast, MASN)


メディアの心を掴め!〜Kei Igawa ヤンキース入団会見の現場から (2007.01.31)

  1月9日(現地時間8日)に行われた、ニューヨーク・ヤンキース 井川慶の入団会見。たどたどしい英語でのスピーチであったが、それが逆に「好感が持てた。」「親しみがわいた。」中には「日本人に勇気を与えた。」など、大きな評判になった。

今回のSMCレポートでは、この井川慶入団会見の状況をお伝えしながら、メジャーリーグの入団会見がどのように行われるのか、何が成功のポイントだったかについてレポートする。

【列席者】

この会見、主役の井川慶の他に、たくさんの関係者が列席していたのはご存知だろうか。(写真1)
まずは、彼らについて簡単に紹介していく。

会見の模様


画面右側にチーム関係者、左側に井川の関係者が列席している。

チーム側
* ランディ・レヴィーン球団社長 (右から3人目)
* ブライアン・キャッシュマンGM (右から2人目)
* ジーン・アフターマンGM補佐 (最右)
* ジェイソン・ジーロ広報部長 (中央、壇上)

選手側
* 井川慶投手 (左から4人目)
* 渡辺弓太郎氏 通訳; ニューヨーク・ヤンキース (井川投手後ろ)
* アーン・テレム氏 代理人; ワッサーマン・メディア・グループ (左から3人目)
* 八尋崇之氏 選手マネジメント; クロス・ビー (左から2人目)
* 石島浩太氏 通訳; ワッサーマン・メディア・グループ (最左)

ここに列席している関係者は、ヤンキースの広報部によってアレンジされた人々である。ここで注目したいのは、選手側に通訳が2名いる所である。1名は井川についた渡辺氏で、井川に対してヤンキースのスタッフや米国の記者たちが何を言っているかを訳すのが仕事である。
もう1名、石島氏であるが、彼の役目は日米のメディア向け同時通訳である。井川の言葉、メディアからの質問を日米両国のメディアに向けて、分かりやすく、更に言葉としては表現していない微妙なニュアンスも含めて的確に通訳をしていた。例えば、ヤンキースのユニフォームに袖を通した気持ちを聞かれた時も、単純に「ヤンキースのユニフォーム」と訳すのではなく、アメリカ人の伝統あるヤンキースへの敬意を込めた「ピンストライプ」という言葉に訳し直していた。この訳のおかげで、井川のヤンキースへの敬意が的確にアメリカのメディアやファンに伝わったといえる。
このように、二人が役割分担できたおかげで、両国メディアに誤解を与えなかっただけでなく、井川本人も会見の流れを理解し対応できたといえる。今回の会見が成功に終わったと言われる理由の一つに、通訳を2名置いたというヤンキース側の準備があったといえるのではないだろうか。

報道陣
次に、集まった報道陣であるが、総勢200〜250人がつめかけた。日米の内訳は、3:7で米国の報道陣が多かった。この人数は、日本で行われたヤンキースが交渉権を獲得した時の会見(11月29日)に比べると若干少ないものであったが、テレビカメラが約20台設置されるなど、注目度の高さを表していた。

【会見までの流れ】

続いて、会見までの流れと会見後の動きについてレポートする。

会見日の決定
まず、当日の井川及びそのスタッフの動きであるが、とても慌ただしいものであった。というのも、当日の午前にJFK空港に到着。ホテルに移動すると、荷物を置いてすぐにヤンキースタジアムへ向かわなくては、午後2時からの会見に間に合わなかったのである。こうした慌ただしいスケジュールになったのにも、理由がある。

実は、井川側の予定としては、年末の契約を行った翌日、もしくは今回の渡米における到着の翌日(日本時間10日)が希望であった。しかしながら、年末はヤンキース生え抜きのメジャーリーガーであるアンディ・ペティットの再移籍会見が予定されており、年明けの10日は、薬物問題で注目されたマーク・マグワイアが殿堂入りするかどうかの発表の日であった。こうした状況の中、ヤンキース井川の誕生を最大限に世にアピールするのに適した日がニューヨーク到着の日である9日だったというわけだ。

会見前の準備
ヤンキースタジアムに到着すると、まずオーナー室で会見の段取りについての打ち合わせが行われた。その内容はごく簡単なもので、登場の順番と座席の位置、スピーチを行う順番と、会見後の取材の場所などの流れについての確認だった。この時に、司会進行を行ったヤンキース広報部長のジーロ氏が日本語で歓迎の意を表すること、井川が英語でスピーチを行うことが確認された。

会見は現地時間の14:00からと予定されていた。これは、この会見の模様を生中継する地域ケーブルテレビの予定にあわせたものであった。そのため、会見場であるスタジアムクラブスイートに到着しても、テレビ中継の開始時間に合わせて登場、着席できるように、数分間も横で待機し、テレビスタッフの”Go”サインを待たなければいけないほどの演出であった。ちなみに、会見場には集まったメディアのために職人が握る寿司などの食事が用意されていた。

ロッカールーム


【会見】
いよいよ会見であるが、テレビ中継が始まると同時に、関係者が入場し着席。レポーターの説明の後、会見がスタートする。会見は以下のような流れで進められた。

* ジーロ広報部長の司会・挨拶
* 松井秀喜のコメント
* レヴィーン球団社長のスピーチ
* キャッシュマンGMのスピーチ
* 井川のユニフォーム着用、記念撮影
* 井川慶のスピーチ
* 質疑応答

ここで最も注目を浴びたのが、何と言っても井川の英語によるスピーチであった。これは、井川が事前に用意し2日前から練習をしていたというのは、ご承知の通りである。井川本人も英語でスピーチする事に重要性を感じており、当日も、「緊張は全くしなかったが、英語のスピーチをしっかりやり遂げる事だけを考えていた。」とコメントしていた。
現地メディアからも、英語で伝えようとする積極的な姿勢に「現地に溶け込もうという思いが伝わってきた。」「発音が悪くても英語のスピーチに挑んだことが重要」と評価の声が上がった。内容についても、スピーチの中でヤンキースの豪腕オーナーであるスタインブレイナーについて触れた事が、オーナーに対する皮肉を好むメディアの心をくすぐり(井川の意図としては皮肉ではなかったのだが)、話題を一層大きくした。

【会見後】

壇上での会見が終わった後は、各メディアの囲み取材の対応が行われた。最初はテレビ対応で、あらかじめ決められた5箇所の場所に、レヴィーン球団社長から順に周っていく仕切りになっていた。
1箇所あたりの時間は特に決まっていなかったため、インタビューの受け手側としては待ち時間が長く大変なものであったが、メディア側にとっては十分に取材ができたため、満足だったようである。

テレビ対応が終わると、別室で新聞記者への対応が行われ、最後にグランドでのスチール撮影が行われた。
この時もメディアの要望に応える形で、帽子、ユニフォームを着用した姿でグランドに出ての撮影が準備された。
グランドでのスチール撮影


【まとめ】

以上が、Kei Igawaのヤンキース入団会見の流れである。
最後に、この会見が成功だった。といわれるポイントをまとめたい。

@メディア側を強く意識した段取り
*会見の日程
*食事の提供
*テレビ中継にあわせた会見
*取材時間
*スチール撮影
⇒メディアが取材しやすい場が提供された。

A通訳を2人置き、役割分担できた事。
⇒2つの言語の間の微妙なニュアンスまでも丁寧に伝えられた。また、井川本人に会見の流れを理解させることができた。

B英語での井川のスピーチ
⇒日本のファン、地元のファンに親しみやすさを伝えた。

メディアの向こうにファンがいる。ファンに評価を得るには、目の前にいるメディアに真摯に対応することが重要だということだ。

時代に即した制度に! 〜ポスティングマネーを有効活用しよう (2006.12.20)

 日本では、ポスティングシステムを利用した移籍制度について、その報道が過熱しています。日本人選手の実力がMLBでも認められてきた中で、引き続き松坂選手や井川選手といった日本の超一流選手がポスティング制度を用いて移籍を希望しているため、その応札額が高騰しているのがその一因と考えられます。松坂選手との独占交渉権を獲得したボストン・レッドソックスの入札額が5111万1111ドル11セント(=約60億円)もの天文学的数値になったのは記憶に新しいところです。

 ポスティング制度とは、もともと野茂英雄選手や伊良部秀輝選手、アルフォンゾ・ソリアーノ選手らが日本球界でFA権を獲得する前にアメリカ球界に渡った際、日米間の移籍に関する取り決めがなかったために、選手を失う日本の球団側にとっては何の見返りも受けられずに選手を失ってしまう、MLBの球団としても選手獲得に関して公平なチャンスを得ることができないといった不備があったために、それをなくすために1998年に設置された制度です。ポスティング制度が難しいのは、そもそもNPBとMLBという全く土俵の違う2つの野球機構の間で、選手を失う側の論理と、選手を取る側の論理をすり合わせているためです。

 選手を失う側の日本の球団にとっては、保有権をもつ選手を手放すわけですから、何らかの補償を求めたいと考えるのは当然とも思えます。そして、この補償を求めたい球団の思いをより強くさせているのが、FA選手の補償に関する日米間の不整合です。日本の球団間でFA選手が移籍する場合、選手を失う球団は獲得する球団から旧年俸の120%を補償金として受け取る権利があります(人的補償が伴う場合は旧年俸の80%)。しかし、日米間でFA選手が移籍する際、選手を失う日本の球団にMLBの球団からの補償金はありません。つまり、一銭も実入りのないFAで移籍されてしまうくらいなら、ポスティングで移籍金をというわけです。これが、日本の球団が補償を受けようとする思いを一層強くさせているのです。

 一方で、選手を獲得する側のMLBの論理には微妙な変化が見られます。前述の通り、もともとは選手獲得に公平な機会が提供されることが、獲得側であるMLB球団の求める論理でした。しかし、入札額がここまで高騰してしまったために、貧乏球団では手が出せなくなってしまったのです。実際、レッドソックスの応札額だけで、タンパベイ・デビルレイズやピッツバーグ・パイレーツなど5球団の昨季年俸総額を上回っています。そのため、獲得側の論理は、機会均等から戦力均衡に微妙に変化しつつあります。

 米国のメディアの論調では、選手獲得を現行の入札型から前年度の下位チームからのいわゆるウェーバー制にする、あるいはポスティング選手もMLBのドラフトの対象とするなどの案が出ているようですが、これらはあくまでも選手獲得側(MLB)の論理でしかないので、前述したFA選手への補償条件を日米間で整えるなどの議論が必要でしょう。その際、FAの補償金という仕組み自体が良いのかどうかも併せて考える必要があるかもしれません。高額な補償を伴う日本のFA制度では、結果的に財政的に裕福な特定のチームへの移籍しか実現しないという弊害も指摘されています。MLBはFAの補償としてドラフトの選択権を付与していますので、こうした方法も検討する価値があるかもしれません。

 また、高額な応札額の用途についても、一考する必要があるかもしれません。現在は、応札額が100%選手を失う球団に入る仕組みですが、60億もの巨額な金が果たして1球団だけのために使われて日本球界のためになるのかという視点です。もちろん、応札額を手にする球団は選手を手塩にかけて育ててきたワケですから、失う選手の価値に見合った補償を受ける権利はあるでしょう。問題は、現在の応札額が選手の価値を反映しないまでに高騰してしまっている点です。これは、入札方法が競合球団の入札額が互いに分からない非公開入札となっていることも一因です。

 例えば、巨額の応札額のうち、日本の球団間でのFA移籍と同様に前年度の選手年俸の120%だけを補償金として選手のいた球団に支払い、差額はリーグが管理して各球団への収益分配制度の原資とするのです。松坂選手の例であれば、60億の応札額のうち、彼の2006年の年俸3億3000万円の120%に当たる3億9600万円を西武への補償金とし、残りの56億400万円はNPBが管理するのです。仮にこれを12球団で均等分配すれば、各球団には4億6700万円が分配されることになります。

 また、入札に勝った特定1球団としか契約交渉ができない現行制度では、選手年俸が不当に下げられる恐れもあります。入札に多額の資金を投入することを考えれば、尚更でしょう。もちろん、ポスティングを活用してMLBに渡ろうとする選手は、FA権を取得する前の選手ですから、FA権を有する選手と同等の権利を主張するのはおかしな話ですが、少なくとも球団から提示された年俸に一定の合理性が認められる点が担保されるように考慮する必要はあるかもしれません。例えば、MLBではメジャー経験3年で年俸調停権を手にしますから、日本でも3年以上1軍経験のある選手にはポスティングでも年俸調停権を認めるなどすれば、ある程度年俸に合理性は認められるようになるでしょう。

 そもそも日米間の移籍に抜け穴があったのは、以前は日本のプロ野球選手がMLBでプレーすることなど考えられなかったからです。それが、今では日本のスター選手はMLBでもスター級の活躍が期待される程になりました。ポスティング制度ができて8年が経ち、日米間の移籍については当時とは事情が全く異なって来てしまったのかもしれません。ここで、もう一度日本球界の発展、選手の権利、そしてMLBとの友好的提携を視野にポスティング制度を見直す時期に差し掛かっているのかもしれません。

もう「本末転倒」とは言わせない 〜MLBの新労使協定に見られる収益分配 (2006.11.22)

    10月25日、MLBコミッショナー=アラン・“バド”・セリグ氏は、「MLB機構がMLB選手会と史上最長となる5年間の新労使協定に合意した」と発表しました。現行の労使協定の有効期限が12月19日であることを考えると、その失効前に次の協定が結ばれるというのは異例の早さとも言えます。MLBの労使交渉においてストライキやロックアウトなどによりシーズン中断に至らなかったのは2002年の交渉に続き今回が2回目のことです。この新協定により2011年までは労使協調路線が確保される形になり、1994年から95年にかけて起こったストライキの後、少なくとも16年間は労働争議が起こらないことが保証されることになりました。

 こうした労使協調の背景には、MLBが順調に収益を伸ばしている事実が挙げられます。1995年以降2006年までのMLBの平均年間成長率は10パーセントを超えており、2006年の売上げ予測は51億ドルで、これは4大スポーツリーグではNFL(約60億ドル)に次ぐ数字となっています。また、1995年のMLBの売上げは約14億ドルですから、10年ちょっとで売上げが3.6倍以上になった計算になります。

 さて、今回はこうした成長路線にあるMLBが結んだ新労使協定において、以前のレポート「ただ乗りはダメ!〜収益分配制度の功罪を考える」でも触れたMLBの収益分配制度がどのように修正されたのかを概観してみることにします。日本のマスコミ報道では「収益分配制度に若干の修正を加えただけで継続される」とサラリと流される場合が多く見受けられましたが、実は戦力均衡に大きなインパクトがある修正だったのです。

 ちょっとおさらいになりますが、MLBの収益分配制度における問題点を一言で言えば、平均限界税率(=稼得した最後の1ドルに適用される税率)の逆転現象が起こっていることでした。チーム収入ランキングの上位半数のチームの平均限界税率が39パーセントなのに対し、下位半数のそれは47パーセントであったため、下位チームが戦力を充実させてフィールド上のパフォーマンスを上げ、収益増大につなげようとする戦力均衡のインセンティブにはならなかったのです(むしろ、その逆に作用しました)。

 「収益分配システム」と言っても、その仕組みはリーグによりまちまちです。MLBの収益分配制度は主に2つの分配から成り立っています。1つ目は、全チームを収入額に応じて課税し、徴収したお金を一定ルールのもとでチームに再分配するというもの(Base Plan)。2つ目は、高収入チームを課税して、一定ルールのもとで低収入チームに再分配するというもの(Central Fund Component)。2002年に結ばれた労使協定下では、前者が税率34パーセントのストレート・プール(=均等配分)方式、後者がスプリット・プール方式(=按分配分)によって再分配されていました。

 新労使協定における大きな変更点は、Central Fund Componentにあります。新協定では、Base Planについて税率が34パーセントから31パーセントに引き下げられるだけの変更に留まりましたが(再分配方法はストレート・プール方式のまま)、Central Fund Componentでは、再分配額の算出方法が大きく変更されることになりました。

 Central Fund Componentでは、Base Planで再分配される総額の41.066パーセントに相当する額が、Base Planで支払い側に立ったチームから受け取り側のチームにBase Planとは別に再分配されます。負担額は、各チームの売上げがリーグ平均をどれだけ上回っているかにより、Base Planの41.066パーセント相当額が按分されて徴収されることになります。そして、この徴収額(Base Planの41.066パーセント相当額)が、今度は受け取り側チームに同様にスプリット・プールで再分配されるというものです。

 例えば、チーム収入が200億、140億、110億のチームA、B、Cの3チームがあった場合、Base Planではそれぞれ62億円、43.4億円、34.1億円の合計139.5億円が課税され、46.5億円ずつ各チームに均等分配されることになります。また、Central Fund Componentでは46.5億円の41.066パーセントに相当する約19億円が3チームの平均収入150億円を下回るチームB、CにチームAから分配されることになります。ここで、チームB、Cは平均からそれぞれ10億円、40億円下回っていますから、19億の4/5の15.2億円がチームC、残りの3.8億円がチームBに分配されることになります。

 旧協定(といっても12月19日まで有効なので、正確には「現協定」ですが・・)下では、チームの売上げは「過去3年間の平均値」と定義されていたのですが、新協定では「2005-06年の実績値と2007-08年の売上げ予測の平均値」に変更されることになりました。つまり、旧協定で「変動額」だったチーム売上げの定義を「固定額」にしたのです。これが、新協定の収益分配制度における最大の変更点です。

 変動額では、その年の収入が増えれば、当然3年平均の「チーム売上げ」も増大することになるので、受け取り側のチームは分配額が減ることになります。逆に収入が減れば、分配額は増えることになります。そして、これがそもそものモラルハザードの元凶でした。新協定では、チーム売上げを固定額にすることで、チーム収入の増減が分配額にリンクしないように修正されたのです。これにより、全てのチームの限界税率は結果的に31パーセントで統一されることになるそうです。

 このように、新協定では従来まで「本末転倒」などと指摘されていたモラルハザードの元凶が取り除かれ、よりフェアな競争が実現できる土台が整備されるようになったのです。

危機に瀕するファンタジーゲーム 〜CDM訴訟の潜在的なインパクトとは?(2006.10.27)

  プロ野球カードやゲームソフトに用いられている選手の名前や肖像など(いわゆる「肖像権」)を巡り、その使用許諾権が球団側と選手側のどちらにあるかが争われた訴訟で、東京地方裁判所は今年8月1日、球団側に権限があるとの判断を下し、選手側敗訴の判決を言い渡しました。

 肖像権には、個人の私生活において無断で写真撮影などをされないといった「人格権(プライバシー権)」の側面と、有名人の肖像を無断で商品などの営利的な目的に使われない権利としての「財産権(パブリシティー権)」の2つの側面がありますが、スポーツビジネスにおいて(前述の野球カードやゲームなどで)扱われるのは、特に後者の「財産権(パブリシティー権)」になります。財産権には、選手の肖像の他、名前や声、スタッツ(成績)など、その人個人の属性情報が含まれますが、属性情報だけにこの権利は個人に帰属するというのが基本原則となります。

 アメリカのプロスポーツリーグでは、肖像権は選手個人が選手会に委託する形で、その包括的利用に関して選手会によりライセンス管理が行われています。つまり、選手会が選手の肖像権管理の元締めということです。リーグによっては、選手の肖像権を用いるためにリーグが選手会とグループライセンス契約を結んでいるところもあります(リーグが選手会にライセンス料を支払う)。例えば、MLBではリーグのインターネット専門子会社=MLB Advanced Mediaが選手会との間に5年総額5000万ドル(=約60億円)のライセンス契約を結んでいます。

 一方、日本のプロ野球界では選手の肖像権は今まで慣行的に球団によって管理されてきました。先ほどの訴訟は、その権利主体を整理するために10球団計34人の選手によって提訴されたものでした。選手側は控訴する方針を表明しています。

 ところで、日本での裁判は肖像権の管理主体を確認することを目的とした訴訟でしたが、同じ8月に海の向こうのアメリカでは、肖像権そのものが水泡に帰してしまうかもしれない判決が言い渡されました。

 訴えを起こしたのは、ミズーリ州セントルイスに本社を置くファンタジーゲームメーカー=CDMファンタジースポーツ社。ファンタジーゲームとは、実際のプロスポーツの試合結果と連動したゲームで、自分がオーナー兼GMとなって決められた資金で選手を獲得し、実際の試合での選手の活躍に応じて獲得したポイントを他の参加チームと競いあうシミュレーションゲームです。ゲームでは、選手の名前やスタッツ(成績)といった肖像権の一部が用いられるため、各メーカーは選手会(もしくは、選手会とライセンス契約を交わしているリーグ)とサブライセンス契約を結ぶことになります。

 CDM社は、2005年までMLBAMと締結していたサブライセンス契約の更新を断られたのを機に、選手名やスタッツの利用にライセンス許可は不要(つまり、ライセンス契約なしでもファンタジーゲームの製作が行える)とする訴えを起こしたものでした。まあ、何とも身勝手な訴訟とも思えますが、さらにその判決は米国スポーツビジネス界に激震を走らせるものでした。

 ミズーリ州地方裁判所のメリー・アン・メドラー(Mary Ann Medler)裁判官は、「CDM社のファンタジーゲームにて使用されているMLB選手の名前とスタッツは、著作権による保護を受けない」とする判決を言い渡したのです。つまり、選手の名前とスタッツの使用について、ライセンスは必要ないという判断です。現在、MLBAMはYahoo!やESPN、CBS SportsLine.com、ProTrade、FoxSports.comなどへのファンタジーゲームでのサブライセンス契約だけで年間200万ドル(=約2億4000万円)の収入があると言われていますが、こうした収入がゼロになってしまえば、選手会やリーグが被る被害は甚大です。

 MLBAMは控訴し、控訴審は来年春に開かれる予定です。もしこの地裁判決が上級審で確定すれば、ファンタジーゲームメーカーは、選手会やリーグとのライセンス契約なしで自由にビジネスを展開できることになり、選手会やリーグが使用している現在のライセンスビジネスモデル自体が危機に瀕することになるでしょう。下級審での判決とはいえ、今後の動向が注目されます。


「もう彼女達を見たか?」 〜WNBAの現状とサバイバルマーケティング (2006.06.12)

 アメリカでは、先月下旬から女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)が10回目の記念すべきシーズン開幕を迎えました。WNBAは、1996年のアトランタオリンピックでのアメリカ女子バスケットボールチーム人気の後押しもあって1997年に創設されたプロリーグです。WNBAは現在、全14チームにより構成されており、5月から8月までのレギュラーシーズンに全34試合を消化してリーグ戦を実施します。

 先週末、ニューヨークにフランチャイズを置くニューヨーク・リバティーのホーム開幕戦を観戦しに行ってきましたが、ホームオープナーということもあって14,070名ものファンがマディソン・スクウェア・ガーデンに足を運びました。リバティーはWNBAの中では一番の人気チームで、昨シーズンの平均観客動員数(ホーム17試合)は10,145名と、WNBAのリーグ平均8,174名を大きく上回っています。

写真:NYリバティー対LAスパークス



 WNBAだけでなく、代表的な女子プロスポーツリーグには、WUSA(サッカー。2003年に活動停止)、NPF(ソフトボール)、WPFL(アメリカンフットボール)などがありますが、リーグ平均で8000名以上の観客動員力を誇るWNBAは、他のリーグを圧倒しており、アメリカ女子プロスポーツ史上、最も成功したリーグであると言えるかもしれません。

 このように、リーグの勃興はあるものの、アメリカでは女子プロスポーツリーグが活発な活動が展開していると言えるでしょう。そして、その背景には、1972年に施行された「Title IX」(タイトル・ナイン)という法律の影響があります。この法律は、学校での女子スポーツに男子同様の機会を保障しなければならないというもので、これにより高校スポーツに参加する女子生徒の比率が、制定前の27人に1人から、今では5人に2人にまで増加しています。つまり、これにより、女子プロスポーツにタレントを供給するパイプが整備されたというわけです。

 WNBAの観客は70%が女性と言われており、実際、試合会場でも多くの女の子を見かけました。米国4大スポーツ(NFL、MLB、NBA、NHL)では、約35%が女性ファンと言われているので、女性へのリーチを考えると、平均観客動員数が約8,000のWNBAは、17,000前後のNBA、NHLとほぼ互角と言うことができるでしょう。

 多くの女子プロリーグが興っては消える中で、WNBAが10年間存続できた大きな要因としては、NBAとの“デュアル・マーケティング”が挙げられます。

具体的には、

・WNBAのレギュラーシーズン開始を、NBAプレーオフが実施され、アメリカ中のバスケットボール熱の高まる5月に設定している
・WNBA14チーム中、13チームはNBAがフランチャイズを置く都市に“同居”している
・14社のWNBAオフィシャルスポンサーのうち、12社はNBAとの共同スポンサーである
・多くの慈善活動・コミュニティー活動をNBAと共同で展開している
・公式HPやオンラインコンテンツはNBAと共同管理・運営されている


といった点です。つまり、WNBAをNBAとの共同プラットフォームと位置づけ、シナジー効果を期待したマーケティング活動を実施しているのです。

 ちなみに、WNBAは毎年スローガンを定めたプロモーションキャンペーンを実施しています。今年のスローガンは「Have you seen her?」(もう彼女達を見たか?)。女子スポーツだからといって侮ることなかれ。WNBAのマーケティング戦略は、マイナーリーグが生き残っていく上での大きなヒントを与えてくれるかもしれません。

写真:WNBAの2006年スローガン



「ただ乗り」はダメ! 〜収益分配制度の功罪を考える (2006.05.22)

 リーグにプールした収入をチームに分配する、いわゆる「収益分配制度」はNFLの代名詞的な制度と言えます。NFLにおける収益分配制度はリーグが発足した1920年にまで遡り、1960年代前半にコミッショナー=ピート・ロゼールにより補強されました。そして、今や収益分配制度は、どのプロリーグ経営においてもチーム間の収入格差を埋め、戦力バランスの不均衡を是正するために不可欠な仕組みとして考えられるようになりました。プロスポーツリーグの製品である試合は2チームのパフォーマンスが織り成す“複合物”であるため、両者の戦力がバランスしていることが、高品質な製品(=接戦)を作り出す上で重要な要素なのです。

 しかし、収益分配制度はどんな場合にも成果を上げることができる“万能薬”なのでしょうか?

 例えば、MLBは1996年より収益分配制度を導入しました。これにより、2001年までに各チームの純収入(全チーム収入からスタジアム経費を差し引いた額)の20パーセントが課税されることになりました。各チームから徴収された額は、その4分の3が全30チームで均等分配され、残りの4分の1が収入のリーグ平均を下回るチームに対して、その下回る額に比例して按分配布されることになりました(いわゆる「スプリット・プール方式」)。そして、2002年の新労使協定において、これが税率34パーセントで徴収額の100パーセントを全チームに均等配分する方式(いわゆる「ストレート・プール方式」)に変更されました。

 しかし、この結果として導き出された効果は、本末転倒なものだったのです。本来であれば、低収入チームに分配金を厚く配布することで年俸につぎ込める原資を増やし、戦力を増強させることで高収入チームとの戦力格差を縮小することが収益分配制度の意図するところです。しかし、オーナー達はその年のポストシーズン進出に目処が立たなくなると(半分以上のオーナーが毎年この気分を味わうことになります)、何と逆に年俸総額を下げることで収益率最大化を目指すように方向転換してしまうのです。

 年俸総額を下げる(=いい選手を放出する)ということは、つまりチームのパフォーマンスに悪影響を与え、チーム収入が下がることを意味しますが、これでより多額の分配金をリーグから受け取ることを目論むのです。正確に言うなら、年俸減額分(コストダウン分)と分配金の増額分(収入アップ分)の和が、パフォーマンスの悪化によるチーム収入の減額分を上回るようなら、結果的にその年俸総額引き下げ戦略は収益性を高めていることになります。誤解を恐れずに言うなら、わざと負けるほうが楽にチーム経営ができるということです。これは、収益分配制度の「ただ乗り」に他なりません。

 このように、MLBの収益分配制度には、低収入チームの経営努力を減退させるという逆効果が現れるようになってしまったのです。事実、米国のスポーツエコノミスト=アンドリュー・ジンバリスト氏(スミスカレッジ教授)によると、MLBの現行収益分配制度では、チーム収入ランキングの上位半数のチームの平均限界税率(=稼得した最後の1ドルに適用される税率)が39パーセントなのに対し、下位半数のそれは47パーセントという逆転現象が起こっているといいます。つまり、収入額の多いチームより少ないチームの方が、収入を増やした際の課税額が相対的に多くなる(言い換えれば、収入額の少ないチームの方が収入を減らした際に受け取る分配額が多くなる)のです。これでは、低収入チームが戦力を増強してチーム収入を増やそうとするインセンティブには成り得ないでしょう。

 収益分配制度が機能するためには、各チームが健全な経営努力を行っていることが前提条件となるのです。そのため、MLB以外のリーグでは、健全な経営努力をしているチームのみに分配金が配布されるような仕組みを作っています。

 例えば、2006年3月に新労使協定が締結された(基本的には2005年までのものが延長更新された)NFLでは、分配対象となるリーグ収入のうち50パーセントを全32チームで均等配分し、30パーセントはチームのチケット収入などから経営の健全性を判断した上で条件付で分配され、残りの20パーセントは留保されることが決定されました。条件付で分配される30パーセント部分については、Pick Upトピック「収益分配制度を研究せよ」でもお伝えした収益分配制度研究委員会により2006年シーズン中には決定される予定となっています(ちなみに、旧労使協定では、チケット収入がリーグ平均の80パーセントに達することが分配金の受け取り資格となっていました)。

 スポーツビジネスでは、チーム収入はマーケット規模にある程度比例するため、チーム収入の多寡が経営努力を正確に反映している指標とは言いがたい、という意見もあります。つまり、スモールマーケットで死ぬ気で頑張っても、ビックマーケットのチームにはかなわないという意見です。これはもっともな意見で、NBAはチーム収入だけでなく、マーケットの人口や世帯平均収入、その他スポーツチームと競争状況などを総合的に勘案したマーケット調査を戦略系コンサルティング会社=マッキンゼー社に毎年依頼しており、この調査からその年のチームの経営努力の相対ランキングを決定し、収益分配を実施しています。

 そして、意外にも最も先進的な収益分配制度を導入しているのが、2004年シーズンがロックアウトでキャンセルされたNHLです。NHLは、2005年に締結された新労使協定にて、分配金の受け取り資格として以下を定めています。

・チーム収入ランキングが下位半数のチームであること
・フランチャイズのメディアマーケット規模(テレビ受信世帯数)が250万以下のチームであること
・チーム最低年俸総額(労使協定にて規定されている)を25パーセント超える年俸総額を捻出できるだけの収入がないチーム

 さらに2007年シーズンより、「チーム収入の成長率がその年のリーグ平均を上回っていること」という条件が追加されることになっています。つまり、メディアマーケットが小さくチーム収入も少ないが、リーグ平均以上の経営努力を示していることが分配金を受け取るための資格として定められているのです。「ただ乗り」は許さないという訳です。

 NHLの基準を2005年シーズンのMLBに当てはめると、分配金を受け取っていたフィラデルフィア・フィリーズ、フロリダ・マーリンズ、カンザスシティ・ロイヤルズ、タンパベイ・デビルレイズの4チームは受け取り資格を失います。

 MLBでは、今シーズン終了時に現行の労使協定が失効します。新協定では、どのような収益分配制度に進化するか注目されるところでしょう。


与えるられるより創り出せ! 〜NFLから学ぶオフシーズン・マーケティングの真髄 (2006.05.08)

 2006年のNFLドラフトが5月29日(土)、30日(日)の2日間に渡ってマンハッタンのラジオシティー・ミュージックホールにて開催されました。ドラフトはNFLのオフシーズンのマーケティング活動の根幹を成す重要なプラットフォームで、このビックイベントに合わせて様々なマーケティング活動が展開されます。

NFLは近年、ドラフトのイベント性を高めるために様々な取り組みを実施しています。マンハッタン内の400箇所以上にドラフトを告知するバナーを掲げるのを手始めに(下写真)、積極的にテレビCMをオンエアしています。その甲斐あってか、昨年のドラフトの視聴率(スポーツ専門ケーブル局ESPNにより放映)は4.3パーセントを記録しました(MLBやNBAのレギュラーシーズンの平均視聴率が3パーセント前後であることを考えると、この数字の凄さが分かると思います)。

写真:マンハッタン内に掲げられたバナー

 NFLのドラフトは全7ラウンドで、50ラウンドまで実施され1500名近くが指名されるMLBに比べるとその規模自体は小さくなります(NFLでは全32チームにより計224名が指名される)。しかし、その分少数精鋭の超エリート選手しかドラフトの舞台に立つことが許されないのです。NFLもその点を十分に理解した上でテレビ中継に臨んでいます。

 今年もドラフトはESPNによって2日間に渡り全7ラウンドが生中継されました。NFLは、テレビ中継でこの少数精鋭エリート選手のパーソナリティーを前面に押し出したPR活動を展開します。ドラフトにおける各チームの持ち時間は、第1ラウンドに15分、第2ラウンドに10分、第3ラウンド以降は5分と決められていますが、この持ち時間の間、テレビ中継ではチーム状況やコーチの哲学などが紹介され、指名が発表されると、その選手の持つ高い運動能力が過去の映像と共に紹介され、続いてその選手がいかにチームの戦術にマッチしているのかや、そのパーソナリティーなどが紹介されます。つまり、ドラフトという新人選手が初めてNFLに入団するまさにその日に、選手個人にフォーカスしたマーケティング活動も開始されるわけです。

 指名を受けた選手には、既に背番号を入れられたユニフォームとチームキャップが手渡され、報道陣からの記念撮影を受けることになります。ユニフォームとキャップはNFLのオフィシャルスポンサー=リーボック社製のもので、これが同社の新製品を露出するスポンサーシップアクティベーションの機会となっています。この模様は、もちろんテレビ放送によって全国中継されるので、リーボックのロゴや新製品が、NFLの新戦力とともにファンの目に焼きつくことは言うまでもありません。

 ドラフトを活用したスポンサーシップアクティベーションはリーボック社に留まりません。ドラフトが開催されたラジオシティー・ミュージックホールでは、オフィシャルスポンサー=キャンベル・スープのサンプリングが行われた他、自動車カテゴリのオフィシャルスポンサー=GMのハマーH3が“NFLドラフト公式自動車”として展示されました。

 こうしたドラフトサイトでの企画と平行して、オンラインでも数々のプロモーションが実施されました。前出のキャンベルは「Predict the Picks Challenge」(指名選手を当てようチャレンジ)と名づけた販促キャンペーンを展開しています。携帯電話カテゴリのスプリント・ネクステル社はプロスポーツ史上初めてドラフトを携帯電話で中継したほか、NFL.com内に「Draft Room」と呼ばれる特設ページを設け、“Long Shots”と題してドラフト指名順は低くても大活躍した往年のスター選手のファン投票を実施しました。

 宅配カテゴリのFedEx社は同社顧客をもてなす機会としてドラフトを位置づけ、約600名もの顧客をニューヨークに招待しました。NFLはこれに合わせてNFLスポンサーシップサミットを開催し、各オフィシャルスポンサーの幹部やチームのマーケティング担当者と一堂に会したコミュニケーションの場を提供しています。このサミットではNFLによって実施されたNFLファンのデモグラフィック情報に関する調査結果がスポンサーに報告された他、スポンサーシップに関する様々な情報が共有されることになります。

 このように、NFLはドラフトを単なる新人選手獲得の“通過儀礼”としてでなく、ファンやスポンサーに実効的なメリットを提供する効果的な“マーケティング・プラットフォーム”として活用しているのです。話題の少ないシーズンオフに、自ら話題を作り出し、マーケティング活動を積極的に展開するNFLには、脱帽せずにいられません。

■ 関連事例
「戦いはシーズンオフから 〜マーケティングイベントとしてのドラフトの可能性」(SMCレポート)
「なぜ今アクティベーションなのか? 〜スポンサーシップの本当の意味を考える」(SMCレポート)
「頂上を目指せ!: スポンサー・サミットを成功させる秘訣」(マーケティング事例)

 

話題を作れ! 〜NFLに学ぶ”ストーリーメイキング・マーケティング”の極意 (2006.09.27)

 NFLの2006年シーズンが9月7日(木)に開幕しました。

 これだけ聞いて「???」と思った人は鋭い人です。そうです、開幕は週末ではなく平日(木曜日)なのです。しかも、実施されるのはたった1試合だけです。

 NFLは32チームによる16試合のうち、日曜日に15試合を、そしてプレミアカード1試合を月曜日に切り出して「Monday Night Football」(MNF)として放映するのが一般的なゲームスケジュールですが、シーズン開幕時のみMNFに加え、更に1試合を木曜日に「開幕特別試合」として切り出して実施しています(この形式でシーズンが開幕されるようになったのは2002年からで、それ以前までは9月最初の週末に通常スケジュールで開幕していました)。

 開幕戦会場では、試合開始1時間前から有名アーティストらによるコンサートが開催され、開幕ムードを一気に盛り上げます。しかも、このコンサートは試合会場だけでなく、そのシーズンのスーパーボウル開催地(今シーズンはマイアミ)と連動した二元中継で実施されるのです(今年は、グラミー賞にノミネートされたラスカル・フラッツやトップ音楽プロデューサーのディディ、モデルからシンガーに転身し、デビュー作が全米チャートで上位にランクインしているキャシーらが登場)。もちろん、この模様は開幕戦の前座として全米中継されます。

 さて、注目の今年の開幕カードはスティーラーズ対ドルフィンズ。そうです、昨年のスーパーボウルチャンピオンが早くもシーズン開幕戦に登場するのです。これだけでも話題性十分と言えますが、それだけでなく、対戦相手であるドルフィンズのフランチャイズはマイアミ、つまり今シーズンのスーパーボウル開催地です。

 二元コンサートの実施で視聴者にしっかりとマイアミでのスーパーボウルへの関心を高め、間髪を入れずにマイアミのチームを登場させる。これにより、読者は単に開幕だけに気を取られるのではなく、熾烈なシーズンの後に勝ち残った2チームが雌雄を決するスーパーボウルへの思いも新たにし、その記憶にしっかりと刻み付けるのです。

 こうした執拗とも言えるストーリーメイキングは、MLBやNBA、NHLなどに比べ試合数が少ないNFLが試合価値を最大化するために実施しているマーケティング戦略の一環です。つまり、試合数が少ない分、1つ1つの試合に独自のストーリーを持たせ、マーケティングするのです。

 日曜日に開催した13試合(今シーズンは開幕週のMNFが2試合であった)に目を転じてみても、NFLのストーリーメイキングの巧みさは随所に見て取れます。その中でも、試合開始前から多くの注目を集めたのがニューヨーク・ジャイアンツ対インディアナポリス・コルツ戦でしょう。誰もが認めるリーグ最高のQBの1人=ペイトン・マニング率いるコルツが、その弟=イーライ・マニング率いるジャイアンツと激突するのです。

 「マニングボウル」とも言われたこの兄弟対決では、単にストーリーメイキングだけに留まらず、それをゲームプログラムやマーチャンダイズに生かし(写真1、2)、作り上げたストーリーをしっかりと現金化するところまで考えられているところに、NFLの抜け目なさを実感します。

写真1:ゲームプログラム

写真2:Tシャツ

 1試合1試合に独自の関心のフックを創り、それを基にメディア露出を増やす。同時に、それにちなんだグッズを製作・販売し、現金を回収する。こうした“ストーリーメイキング・マーケティング”とでも言えるNFLの手法は、試合数が少ないからこそできる芸当とも言えます。しかし、放映権やスポンサーシップなどからの収入が頭打ちになっている昨今、試合価値向上という視点は、プロスポーツ経営のボトムアップのために有効な手法と言えるかもしれません。

日常の隙間を埋めよう! 〜USオープンのパブリックビューイングの現場から (2006.09.08)

  アメリカでは8月28日からニューヨークのビリー・ジーン・キング・ナショナルテニスセンターにて、世界4大大会の最後の大会=USオープンテニスの熱戦が繰り広げられています。この大会には日本からも、杉山愛選手、中村藍子選手、森上亜希子選手、浅越しのぶ選手の4選手が出場しています。

 この大会では、グランドスラムとして初めてビデオ判定が導入されるほか、この大会を機にアンドレ・アガシ選手、マルチナ・ナブラチロワ選手、そして浅越選手という日本でもお馴染みの選手が残念ながら現役選手生活に別れをつげることになるなど、いつもにも増して注目度が高くなっています。

 USオープンテニスでは、今年から同大会への認知度や関心を高めるためのいくつかの試みがなされています。その1つは、先日のPick Upトピック「ATMで当たりがでたら?!」でもお伝えした無料チケットの当選プログラム。同トーナメントの金融カテゴリのオフィシャルスポンサー=JPモルガン・チェイス銀行がニューヨーク市近郊に設置している1789台のATMで、利用後のレシートの裏に同トーナメントへの無料チケット当選の特典がランダムで印刷されるというものです。

 また、もう1つの試みがパブリックビューイングです。UPオープンは、マンハッタンのブロードウェーと5番街が交差するところにある公園=マディソン・スクエア・パークにて、「USオープンライブ」(US Open Live)と題したパブリックビューイングを9月2日から決勝戦が行われる10日まで実施しています(写真1)。早速、行ってきましたので、そのレポートをしたいと思います。

写真1:「USオープンライブ」会場

 この「USオープンライブ」では、公園の一角に大型テレビジョンを配置し、その周辺に芝生席や仮設の特別観戦席などを設置しているほか(写真2、3)、マンハッタンの有名レストランやデリが臨時店舗を出店しており、オープンカフェでのんびり食事もできるようになっています(写真4、5)。これなら、テニスにそれほど興味がない人でも、ランチがてら気軽に立ち寄れそうです。

写真2:大型テレビジョンと芝生席

写真3:仮設の特別観戦席

写真4:臨時レストラン

写真5:隣接するオープンカフェ

 さらに、パブリックビューイング会場周辺には、臨時テニスクリニックやサーブの球速測定コーナー「Speed Serve Alley」、レシーブの正確性を競う「Sportwall Challenge」などのアトラクションも用意されており、昼休みのビジネスマンや観光客、子供達などが普段着でテニスを楽しんでいました(写真6、7、8)。昼休みのビジネスマンには気分転換にぴったりかもしれません。観光客にはいい思い出になるし、子供達も大喜びでしょう。

写真6:臨時テニスクリニック

写真7:サーブの球速測定コーナー

写真8:レシーブコーナー

 マンハッタンの公園はビジネスマンや市民の憩いの場です。仕事に一息いれるビジネスマン、休暇を楽しむ人、犬の散歩に立ち寄る人、観光客などにとって、公園は日常と日常の隙間を埋め、活力を取り戻すための「充電ゾーン」と言えるかもしれません。

 一方で、スポーツは「非日常的な体験」を売りにする産業です。パブリックビューイングという場を通じて、スポーツの持つ“非日常性”を市民の日常と日常の隙間でプレゼンテーションすることができれば、スポーツは市民生活にとってより身近な存在になることができるかもしれません。

コミッショナーシップを考える 〜タグリアブー氏の功績を振り返りながら (2006.08.16)

 日本では、Jリーグが7月30日に開催された第30回通常総会において、鬼武健二前Jリーグ専務理事のチェアマン(理事長)への選任を発表しましたが、海を渡ったアメリカでは、8月8日にNFLがポール・タグリアブーの後任として、ロジャー・グッデル前COOのコミッショナーへの就任を発表しました。

 17年間もの長きに渡ってNFLをリードしてきたタグリアブー氏は、米国プロスポーツの中でも最も尊敬されるコミッショナーと評価されていますが、今回は同氏の功績について簡単に振り返りながら、コミッショナーシップについて考えてみようと思います。  タグリアブー氏は、1969年から弁護士としてテレビ放映権契約、労務問題、球団拡張といったNFLの重要な法務案件を処理した実績を買われ、1989年にかの伝説的なコミッショナー=ピート・ロゼール氏の後を引き継ぐ形でコミッショナーに就任しました。以来17年間、NFLを4大メジャースポーツでも群を抜いた米国ナンバーワン・スポーツエンターテイメント企業に育ててきましたが、同氏の功績として最も評価されている点は、2つあると言えそうです。

 まず第1は、労使協調です。NFLは米国4大スポーツの中にあって、1989年以降労使紛争でシーズンが中断したことのない唯一のリーグです。ストライキやロックアウトによるシーズン中断は、リーグ経営に大きな悪影響を及ぼします。例えば、ご存知の通りMLBは1994年から95年シーズン頭にかけてのストライキにより、90年のMLB史上初めてワールドシリーズが開催されない不測の年となりましたが、これにより平均観客動員数は94年の31,612名が、1995年には25,021名にまで落ち込みました。NBAは1998年のロックアウト(公式シーズン試合数が82試合から50試合に短縮された)の影響をいまだに引きずっていると言われ、2004年にようやくロックアウト前年レベル(17,000人超)にまで平均観客動員数が戻ったばかりです。NHLも労使交渉が決裂して2004-05シーズンがキャンセルされたことは記憶に新しいところです。

 つまり、熾烈な労使交渉が行われる米国プロリーグでは、シーズンを中断させないことはコミッショナーに課せられた大きな使命と言えるのです。シーズンが中断すれば、チケット収入の減少は言うに及ばず、テレビ放映権料やスポンサー料、グッズ売上などあらゆる収益源に影響が出るわけです。商品である「試合」を行うのをやめるわけですから、これは当然の帰結です。  タグリアブー氏の2つ目の功績は、メディア収入(特にテレビ放映権収入)の安定したリーグ財源化(収益分配制度の維持・促進)です。スポーツリーグ経営の4大収入源は、(1)チケット収入、(2)メディア収入(テレビ放映権・ラジオ放送権)、(3)スポンサーシップ収入、(4)マーチャンダイジング収入ですが、リーグ全体の収入(リーグ収入+チーム収入)の中で、最も高い比率を占めるのはメディア収入です。

 NFLの代名詞とも言える収益分配制度は、リーグが発足した1920年にまで遡り、1960年代前半にピート・ロゼール氏によりその基礎が築かれました。メディア収入は、リーグとチームがせめぎ合う主戦場ですが、ここでどれだけの割合をリーグが手にすることができるかで、チーム間の経営規模のバランスが決まってくると言えます。つまり、リーグがより多くのメディア収入を手にすれば、収益分配制度を用いて各チームにより多くの分配金を配分できる(チームの経営を安定化できる)というわけです。

 NFLでは、プレシーズンゲーム以外のテレビ放映権は全て(収益分配の対象となる)リーグの収入となります。こうした収益分配の取り決めは、オーナー間の信託協定によって担保されていますが、この信託協定を更新する際に、オーナー間の意見を取りまとめるのもコミッショナーの重要な任務です。当然、ビックマーケットのチームは収益活動における高い自由度を要求しますし、スモールマーケットのチームはその逆の要求をします。こうした異なる主張をまとめ、リーグの最大利益に資する判断を行うことがコミッショナーに求められるのです。

 タグリアブー氏がコミッショナーに就任した1989年当時、NFLのメディア収入は5億ドルを超える程度でしたが、今ではそれが6倍近くになっています。同氏がコミッショナーとして指揮した最後の年となった2006年、NFLは地上波テレビ局FOX、CBS、NBCと6年総額116億ドル、ケーブルテレビ局ESPNと8年総額88億ドルのテレビ放映権契約を結びました。

 タグリアブー氏の功績である「労使協調」と「収益分配制度の維持・促進」とは、見方を変えれば、「経営陣対労働組合」と「リーグ経営対チーム経営」といったスポーツリーグ経営が内包する本質的に対立する概念での成功を表していると言えるでしょう。コミッショナーシップとは、リーグ経営の抱える二律背反を統合し、リーグの最大利益を見据えた舵取りを行うことと言えるかもしれません。

加速する”ケーブリゼーション” 〜MLBに見られるテレビ放映権契約の最新トレンド (2006.07.28)

  今月11日にピッツバーグで開催された、第77回オールスターゲームに合わせて、MLBは地上波テレビ局FOX及びケーブルテレビ局TBSと、新たな全国放送テレビ放映権契約(2007年からの7年契約)を締結したと発表しました。MLBは昨年スポーツ専門ケーブルテレビ局ESPNとも同じく全国放送の放映権契約(2006年より8年契約)を結んでおり、これでMLBのナショナルテレビ放映権契約がようやく出揃ったことになります。

 一連の新テレビ放映権契約から明らかなのは、テレビ放映権が地上波からケーブルにシフトしつつある、つまり放映権のケーブリゼーション(Cablization=ケーブル化)が進んでいるということでしょう。

 表1、2にある通り、21世紀に入りMLBのテレビ放映権は地上波をFOXが、ケーブルテレビをESPNが独占していました。また、年平均の放映権料に目を向けてみると、2005年まではFOXの4億1670万ドルに比べ、ESPNは1億4180万ドル(2006年は2億9600万ドル)と、地上波がケーブルの2倍以上の金額を支払ってきたことが分かります。

表1:MLBの放映権契約(地上波)

表2:MLBの放映権契約(ケーブル)

 これは、FOXがレギュラーシーズンゲームに加え、オールスターゲームやプレーオフ、ワールドシリーズといったプレミア・イベントの独占放映権を有していたからに他なりません(ESPNはレギュラーシーズンゲームのみ放送)。視聴率が10%を超えるこうしたプレミア・イベントに比べ、MLBのレギュラーシーズンゲームの平均視聴率は、地上波で3%弱、ケーブルテレビでは1%ちょっとに過ぎません。FOXの支払う放映権料が高いのはこのためです。

 しかし、来年よりこの状況は一変します。表1から分かるように、FOXの年平均放映権料は、新契約になって1億5000万ドル以上も目減りした2億5700万ドルになります。逆に、ケーブルテレビのそれは、TBSの加入もあってESPNと合計すると3億9600万ドル(ESPN 2億9600万ドル+TBS 1億ドル)と、初めて地上波を逆転するに至ったのです。

 ちなみに、TBS(Turner Broadcasting System)は、世界初の24時間ニュース専門ケーブル局=CNNを創設したテッド・ターナー氏が築き上げたスーパーステーションですが、現在はアトランタ・ブレーブスを保有するAOLタイムワーナー社によって所有されています。TBSはスポーツファンにとってはブレーブス戦を全国放送することでお馴染みのケーブル局ですが(今シーズン70試合のブレーブス戦を全国中継する予定)、MLBの放映権を有する来年以降はブレーブス戦の全国中継を中止するということです。

 新契約でFOXは、今まで有していたプレミア・イベントのうちオールスターとワールドシリーズの独占放映権は引き続き持ち続けるものの、リーグ優勝決定戦の一部(正確には、7年の契約期間中、ア・リーグの優勝決定戦を4回、ナ・リーグを3回)を除く全てのプレーオフの放映権を手放すことになります。

 FOXが失ったプレーオフのテレビ放映権のうち、リーグ優勝決定戦を除いた地区シリーズの全試合の放映権はTBSに移行することになりました(つまり、FOXが保有しないア・リーグ3回、ナ・リーグ4回のリーグ優勝決定戦の放映権は現時点で買い手がない)。TBSはこれに加え、毎週日曜午後のレギュラーシーズンゲーム(26試合)を新契約で手にすることになります(表3)。

表3:FOXとTBSが手にした放映権内容

 従来より、FOXは「高騰するテレビ放映権への投資を回収できない」とMLBに対して“泣きを入れていた”と報じられてきましたが、今回の新契約はまさにそれを反映する内容になったと言えそうです。MLBにしてみれば、TBSをひっぱってくることで、FOXがMLBのテレビ放映権から撤退することを何とか防ぐことができたと言えるかもしれません。

 しかし、無料で視聴できる地上波に比べ、有料放送であるケーブルテレビにテレビ放映権がシフトしつつあるということは、それだけファンの手の届かないところにスポーツが遠ざかってしまったと考えることもできるでしょう。地上波とケーブルテレビには、そのリーチにも大きな違いがあるため(全米では1億600万世帯がテレビを所有している(つまり、地上波を見ることが出来る)のに対して、全米最大のケーブル局ESPNでも、その受信世帯は7700万に留まっている)、短期的な観点から収益性を求めたがために、長期的な観点から普及が阻害されるといったリスクも考えられます。

今後のテレビ放映権交渉では、スポーツリーグには、「収益性」と「普及」という時として二律背反する観点からの手綱さばきが求められてくると言えるかもしれません。

戦力均衡化のための“もう1つのドラフト” 〜MLB「ルール5ドラフト」の中身とは? (2006.07.10)

 成功するリーグ経営のための必要要件が、チーム間の「経営規模の均衡化」と「戦力の均衡化」にあることは論を待たないでしょう。他のビジネスに比べ、プロスポーツビジネスの最も特殊な点は、その最終製品(=試合)が複数チームのパフォーマンスが織り成す複合物であるという点です。そのため、特定のチームが飛びぬけて強くなりすぎないように、ある程度チーム間の経営規模、戦力バランスを均等化する必要があるのです。

 戦力の均衡化を実現するために人材の流動性を高めても、一握りの金持ちチームが財力に物を言わせて優秀な人材を独り占めするようでは、結果的に最終製品の質は下がる(緊迫した接戦が見られなくなる)でしょうし、その逆に経営規模を均等化しても、人材の流動性が低く、戦力の均等化がなされなければ、同じ結果を招くでしょう。

 その意味では、「経営規模の均等化」と「戦力の均等化」はリーグ経営にとって欠くことのできない車の両輪と言えるかもしれません。

 経営規模を均等化するために、多くのリーグが様々な形での収益分配制度を採用しています(その功罪は、『「ただ乗り」はダメ! 〜収益分配制度の功罪を考える』で述べた通りです)。また、戦力の均等化を実現するために、多くのリーグが、一般企業での新卒採用にあたる「ドラフト制度」と、中途採用にあたる「フリーエージェント制度」を併用していることは、よく知られています。

 今回は、MLBでの戦力の均等化を図るための“もう1つのドラフト”をご紹介しようと思います。

 先月(6月)8日、MLBは2006年ドラフトを開催し、全30チームによって合計1502名のアマチュア選手が指名を受けました。一般に知られているこのドラフトは、「First-Year Player Draft」(新人ドラフト)と呼ばれるものですが、実はMLBにはこれ以外にもう1つのドラフトがあることはあまり知られていません。

 「ルール5ドラフト」と呼ばれるそのドラフトは、MLBのマイナー組織に3年以上所属する選手を対象とするドラフトで、MLB規約の第5条に規定されていることから、通称「ルール5ドラフト」と呼ばれています(ちなみに、新人ドラフトは第4条に規定されています)。

 このドラフトの特徴的な点は、マイナー選手と対象としている点もそうですが、常に自分が所属するレベルより一つ上のレベルのチームからドラフトを受ける点(つまり、シングルAに所属する選手はダブルAから、ダブルAに所属する選手はトリプルAから、トリプルAに所属する選手はメジャーリーグのチームから指名を受けることになる)にあります。



 この制度により、一定期間、同一チームで芽が出なかった(=メジャーに昇格しなかった)選手にも、他球団により評価されればセカンドチャンスが与えられることになるのです。つまり、MLBでは、埋もれた才能にまでも光を当て、それを球団間で均等化するための仕組みが存在しているというわけです。

 これにより、より高いレベルでの「戦力の均衡化」が実現されるのは言うまでもありません。しかし、見逃してはならないのは、先にも触れたように、毎年1500名にものぼる大量採用がこの制度と表裏一体に存在することです。1500名の新人採用は、同数の選手が解雇されることを意味します。

 このように、MLBでは選手は常に「Up or Out」(昇格しなければ解雇)というプレッシャーにさらされながら厳しい生存競争を送っており、このような健全な競争環境が戦力の均衡化を支えていると言えるでしょう。


「もう彼女達を見たか?」 〜WNBAの現状とサバイバルマーケティング (2006.06.12)

 アメリカでは、先月下旬から女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)が10回目の記念すべきシーズン開幕を迎えました。WNBAは、1996年のアトランタオリンピックでのアメリカ女子バスケットボールチーム人気の後押しもあって1997年に創設されたプロリーグです。WNBAは現在、全14チームにより構成されており、5月から8月までのレギュラーシーズンに全34試合を消化してリーグ戦を実施します。

 先週末、ニューヨークにフランチャイズを置くニューヨーク・リバティーのホーム開幕戦を観戦しに行ってきましたが、ホームオープナーということもあって14,070名ものファンがマディソン・スクウェア・ガーデンに足を運びました。リバティーはWNBAの中では一番の人気チームで、昨シーズンの平均観客動員数(ホーム17試合)は10,145名と、WNBAのリーグ平均8,174名を大きく上回っています。

写真:NYリバティー対LAスパークス



 WNBAだけでなく、代表的な女子プロスポーツリーグには、WUSA(サッカー。2003年に活動停止)、NPF(ソフトボール)、WPFL(アメリカンフットボール)などがありますが、リーグ平均で8000名以上の観客動員力を誇るWNBAは、他のリーグを圧倒しており、アメリカ女子プロスポーツ史上、最も成功したリーグであると言えるかもしれません。

 このように、リーグの勃興はあるものの、アメリカでは女子プロスポーツリーグが活発な活動が展開していると言えるでしょう。そして、その背景には、1972年に施行された「Title IX」(タイトル・ナイン)という法律の影響があります。この法律は、学校での女子スポーツに男子同様の機会を保障しなければならないというもので、これにより高校スポーツに参加する女子生徒の比率が、制定前の27人に1人から、今では5人に2人にまで増加しています。つまり、これにより、女子プロスポーツにタレントを供給するパイプが整備されたというわけです。

 WNBAの観客は70%が女性と言われており、実際、試合会場でも多くの女の子を見かけました。米国4大スポーツ(NFL、MLB、NBA、NHL)では、約35%が女性ファンと言われているので、女性へのリーチを考えると、平均観客動員数が約8,000のWNBAは、17,000前後のNBA、NHLとほぼ互角と言うことができるでしょう。

 多くの女子プロリーグが興っては消える中で、WNBAが10年間存続できた大きな要因としては、NBAとの“デュアル・マーケティング”が挙げられます。

具体的には、

・WNBAのレギュラーシーズン開始を、NBAプレーオフが実施され、アメリカ中のバスケットボール熱の高まる5月に設定している
・WNBA14チーム中、13チームはNBAがフランチャイズを置く都市に“同居”している
・14社のWNBAオフィシャルスポンサーのうち、12社はNBAとの共同スポンサーである
・多くの慈善活動・コミュニティー活動をNBAと共同で展開している
・公式HPやオンラインコンテンツはNBAと共同管理・運営されている


といった点です。つまり、WNBAをNBAとの共同プラットフォームと位置づけ、シナジー効果を期待したマーケティング活動を実施しているのです。

 ちなみに、WNBAは毎年スローガンを定めたプロモーションキャンペーンを実施しています。今年のスローガンは「Have you seen her?」(もう彼女達を見たか?)。女子スポーツだからといって侮ることなかれ。WNBAのマーケティング戦略は、マイナーリーグが生き残っていく上での大きなヒントを与えてくれるかもしれません。

写真:WNBAの2006年スローガン



「ただ乗り」はダメ! 〜収益分配制度の功罪を考える (2006.05.22)

 リーグにプールした収入をチームに分配する、いわゆる「収益分配制度」はNFLの代名詞的な制度と言えます。NFLにおける収益分配制度はリーグが発足した1920年にまで遡り、1960年代前半にコミッショナー=ピート・ロゼールにより補強されました。そして、今や収益分配制度は、どのプロリーグ経営においてもチーム間の収入格差を埋め、戦力バランスの不均衡を是正するために不可欠な仕組みとして考えられるようになりました。プロスポーツリーグの製品である試合は2チームのパフォーマンスが織り成す“複合物”であるため、両者の戦力がバランスしていることが、高品質な製品(=接戦)を作り出す上で重要な要素なのです。

 しかし、収益分配制度はどんな場合にも成果を上げることができる“万能薬”なのでしょうか?

 例えば、MLBは1996年より収益分配制度を導入しました。これにより、2001年までに各チームの純収入(全チーム収入からスタジアム経費を差し引いた額)の20パーセントが課税されることになりました。各チームから徴収された額は、その4分の3が全30チームで均等分配され、残りの4分の1が収入のリーグ平均を下回るチームに対して、その下回る額に比例して按分配布されることになりました(いわゆる「スプリット・プール方式」)。そして、2002年の新労使協定において、これが税率34パーセントで徴収額の100パーセントを全チームに均等配分する方式(いわゆる「ストレート・プール方式」)に変更されました。

 しかし、この結果として導き出された効果は、本末転倒なものだったのです。本来であれば、低収入チームに分配金を厚く配布することで年俸につぎ込める原資を増やし、戦力を増強させることで高収入チームとの戦力格差を縮小することが収益分配制度の意図するところです。しかし、オーナー達はその年のポストシーズン進出に目処が立たなくなると(半分以上のオーナーが毎年この気分を味わうことになります)、何と逆に年俸総額を下げることで収益率最大化を目指すように方向転換してしまうのです。

 年俸総額を下げる(=いい選手を放出する)ということは、つまりチームのパフォーマンスに悪影響を与え、チーム収入が下がることを意味しますが、これでより多額の分配金をリーグから受け取ることを目論むのです。正確に言うなら、年俸減額分(コストダウン分)と分配金の増額分(収入アップ分)の和が、パフォーマンスの悪化によるチーム収入の減額分を上回るようなら、結果的にその年俸総額引き下げ戦略は収益性を高めていることになります。誤解を恐れずに言うなら、わざと負けるほうが楽にチーム経営ができるということです。これは、収益分配制度の「ただ乗り」に他なりません。

 このように、MLBの収益分配制度には、低収入チームの経営努力を減退させるという逆効果が現れるようになってしまったのです。事実、米国のスポーツエコノミスト=アンドリュー・ジンバリスト氏(スミスカレッジ教授)によると、MLBの現行収益分配制度では、チーム収入ランキングの上位半数のチームの平均限界税率(=稼得した最後の1ドルに適用される税率)が39パーセントなのに対し、下位半数のそれは47パーセントという逆転現象が起こっているといいます。つまり、収入額の多いチームより少ないチームの方が、収入を増やした際の課税額が相対的に多くなる(言い換えれば、収入額の少ないチームの方が収入を減らした際に受け取る分配額が多くなる)のです。これでは、低収入チームが戦力を増強してチーム収入を増やそうとするインセンティブには成り得ないでしょう。

 収益分配制度が機能するためには、各チームが健全な経営努力を行っていることが前提条件となるのです。そのため、MLB以外のリーグでは、健全な経営努力をしているチームのみに分配金が配布されるような仕組みを作っています。

 例えば、2006年3月に新労使協定が締結された(基本的には2005年までのものが延長更新された)NFLでは、分配対象となるリーグ収入のうち50パーセントを全32チームで均等配分し、30パーセントはチームのチケット収入などから経営の健全性を判断した上で条件付で分配され、残りの20パーセントは留保されることが決定されました。条件付で分配される30パーセント部分については、Pick Upトピック「収益分配制度を研究せよ」でもお伝えした収益分配制度研究委員会により2006年シーズン中には決定される予定となっています(ちなみに、旧労使協定では、チケット収入がリーグ平均の80パーセントに達することが分配金の受け取り資格となっていました)。

 スポーツビジネスでは、チーム収入はマーケット規模にある程度比例するため、チーム収入の多寡が経営努力を正確に反映している指標とは言いがたい、という意見もあります。つまり、スモールマーケットで死ぬ気で頑張っても、ビックマーケットのチームにはかなわないという意見です。これはもっともな意見で、NBAはチーム収入だけでなく、マーケットの人口や世帯平均収入、その他スポーツチームと競争状況などを総合的に勘案したマーケット調査を戦略系コンサルティング会社=マッキンゼー社に毎年依頼しており、この調査からその年のチームの経営努力の相対ランキングを決定し、収益分配を実施しています。

 そして、意外にも最も先進的な収益分配制度を導入しているのが、2004年シーズンがロックアウトでキャンセルされたNHLです。NHLは、2005年に締結された新労使協定にて、分配金の受け取り資格として以下を定めています。

・チーム収入ランキングが下位半数のチームであること
・フランチャイズのメディアマーケット規模(テレビ受信世帯数)が250万以下のチームであること
・チーム最低年俸総額(労使協定にて規定されている)を25パーセント超える年俸総額を捻出できるだけの収入がないチーム

 さらに2007年シーズンより、「チーム収入の成長率がその年のリーグ平均を上回っていること」という条件が追加されることになっています。つまり、メディアマーケットが小さくチーム収入も少ないが、リーグ平均以上の経営努力を示していることが分配金を受け取るための資格として定められているのです。「ただ乗り」は許さないという訳です。

 NHLの基準を2005年シーズンのMLBに当てはめると、分配金を受け取っていたフィラデルフィア・フィリーズ、フロリダ・マーリンズ、カンザスシティ・ロイヤルズ、タンパベイ・デビルレイズの4チームは受け取り資格を失います。

 MLBでは、今シーズン終了時に現行の労使協定が失効します。新協定では、どのような収益分配制度に進化するか注目されるところでしょう。


与えるられるより創り出せ! 〜NFLから学ぶオフシーズン・マーケティングの真髄 (2006.05.08)

 2006年のNFLドラフトが5月29日(土)、30日(日)の2日間に渡ってマンハッタンのラジオシティー・ミュージックホールにて開催されました。ドラフトはNFLのオフシーズンのマーケティング活動の根幹を成す重要なプラットフォームで、このビックイベントに合わせて様々なマーケティング活動が展開されます。

NFLは近年、ドラフトのイベント性を高めるために様々な取り組みを実施しています。マンハッタン内の400箇所以上にドラフトを告知するバナーを掲げるのを手始めに(下写真)、積極的にテレビCMをオンエアしています。その甲斐あってか、昨年のドラフトの視聴率(スポーツ専門ケーブル局ESPNにより放映)は4.3パーセントを記録しました(MLBやNBAのレギュラーシーズンの平均視聴率が3パーセント前後であることを考えると、この数字の凄さが分かると思います)。

写真:マンハッタン内に掲げられたバナー

 NFLのドラフトは全7ラウンドで、50ラウンドまで実施され1500名近くが指名されるMLBに比べるとその規模自体は小さくなります(NFLでは全32チームにより計224名が指名される)。しかし、その分少数精鋭の超エリート選手しかドラフトの舞台に立つことが許されないのです。NFLもその点を十分に理解した上でテレビ中継に臨んでいます。

 今年もドラフトはESPNによって2日間に渡り全7ラウンドが生中継されました。NFLは、テレビ中継でこの少数精鋭エリート選手のパーソナリティーを前面に押し出したPR活動を展開します。ドラフトにおける各チームの持ち時間は、第1ラウンドに15分、第2ラウンドに10分、第3ラウンド以降は5分と決められていますが、この持ち時間の間、テレビ中継ではチーム状況やコーチの哲学などが紹介され、指名が発表されると、その選手の持つ高い運動能力が過去の映像と共に紹介され、続いてその選手がいかにチームの戦術にマッチしているのかや、そのパーソナリティーなどが紹介されます。つまり、ドラフトという新人選手が初めてNFLに入団するまさにその日に、選手個人にフォーカスしたマーケティング活動も開始されるわけです。

 指名を受けた選手には、既に背番号を入れられたユニフォームとチームキャップが手渡され、報道陣からの記念撮影を受けることになります。ユニフォームとキャップはNFLのオフィシャルスポンサー=リーボック社製のもので、これが同社の新製品を露出するスポンサーシップアクティベーションの機会となっています。この模様は、もちろんテレビ放送によって全国中継されるので、リーボックのロゴや新製品が、NFLの新戦力とともにファンの目に焼きつくことは言うまでもありません。

 ドラフトを活用したスポンサーシップアクティベーションはリーボック社に留まりません。ドラフトが開催されたラジオシティー・ミュージックホールでは、オフィシャルスポンサー=キャンベル・スープのサンプリングが行われた他、自動車カテゴリのオフィシャルスポンサー=GMのハマーH3が“NFLドラフト公式自動車”として展示されました。

 こうしたドラフトサイトでの企画と平行して、オンラインでも数々のプロモーションが実施されました。前出のキャンベルは「Predict the Picks Challenge」(指名選手を当てようチャレンジ)と名づけた販促キャンペーンを展開しています。携帯電話カテゴリのスプリント・ネクステル社はプロスポーツ史上初めてドラフトを携帯電話で中継したほか、NFL.com内に「Draft Room」と呼ばれる特設ページを設け、“Long Shots”と題してドラフト指名順は低くても大活躍した往年のスター選手のファン投票を実施しました。

 宅配カテゴリのFedEx社は同社顧客をもてなす機会としてドラフトを位置づけ、約600名もの顧客をニューヨークに招待しました。NFLはこれに合わせてNFLスポンサーシップサミットを開催し、各オフィシャルスポンサーの幹部やチームのマーケティング担当者と一堂に会したコミュニケーションの場を提供しています。このサミットではNFLによって実施されたNFLファンのデモグラフィック情報に関する調査結果がスポンサーに報告された他、スポンサーシップに関する様々な情報が共有されることになります。

 このように、NFLはドラフトを単なる新人選手獲得の“通過儀礼”としてでなく、ファンやスポンサーに実効的なメリットを提供する効果的な“マーケティング・プラットフォーム”として活用しているのです。話題の少ないシーズンオフに、自ら話題を作り出し、マーケティング活動を積極的に展開するNFLには、脱帽せずにいられません。

■ 関連事例
「戦いはシーズンオフから 〜マーケティングイベントとしてのドラフトの可能性」(SMCレポート)
「なぜ今アクティベーションなのか? 〜スポンサーシップの本当の意味を考える」(SMCレポート)
「頂上を目指せ!: スポンサー・サミットを成功させる秘訣」(マーケティング事例)

 

競技発表会から文化発信地へ 〜MLS開幕戦に学ぶプロモーション戦略(2006.04.17)

 前回に引き続き、今回もMLSのマーケティング戦略についてレポートしてみたいと思います。今回は、今シーズンからチームオーナーが変わったニューヨーク・レッドブルズの本拠地開幕戦に見られるプロモーションイベントを皆さんにご紹介します。

 レッドブルズはNFLニューヨーク・ジャイアンツの本拠地=ジャイアンツ・スタジアムを借りて試合を開催しています。試合開始2時間前に会場入りしたのですが、まず驚いたのが既に駐車場周辺には駆けつけたファンの熱気が感じられたことでした。それもそのはず、レッドブルズの本拠地開幕戦であった当日(4月8日)は、開幕イベントとしていくつかのビックイベントが試合開始前の周辺エリアに用意されていたのです。

 まず目を引くのが、スタジアム入り口正面駐車場に設置された仮設コンサート・ステージです。この日、ハーフタイムにはラテン・アメリカミュージック界のスーパースター歌手=シャキーラの出演が予定されており、このステージは試合開始前のコンサート用に設置されているものでした。ステージにはゲームチケットとは別のチケットが必要なのですが、試合前からコンサートを見て大いに盛り上がることができるようになっていました。コロンビア生まれのシャキーラは、英語、スペイン語を自在に操り、MLSの顧客基盤であるアメリカのヒスパニック社会から絶大な人気を誇っており、非常に効果的な人選と言うことが出来るでしょう。

写真:スタジアム脇に設置されたコンサート・ステージ

 また、このステージの横ではモトクロスライダーによるジャンプイベントも企画されていました。実はチーム名の由来ともなった栄養ドリンク「Red Bull」はアクションスポーツとして若者に絶大な人気を誇るXゲームのスポンサーとしても知られており、このアトラクションは同スポーツのファン層をクロスマーケティング的に呼び込んでいるものと思われます。(会場には、アメリカモトクロス界でも有名なライダーが何名か招待されていたようですが、残念ながら昼過ぎまで降り続いた雨の影響で、安全上の配慮からジャンプイベントは中止となってしまいました)

写真:モトクロスライダーによるジャンプイベント

 さらに、こうした野外イベントと平行して、スタジアムに併設されている屋内練習場を利用した「サッカーフェスト」も集客の目玉の一つとなっています。このサッカーフェストでは、ミニサッカーやシュート体験といったサッカーの楽しさを知ってもらうためのアトラクションだけでなく、テレビサッカーゲームやヒップホップダンス、バイクスタントといった若者に人気のあるエンターテイメントを積極的に取り入れているのが印象的でした。こうした充実したゲーム前イベントがあれば、ゲーム観戦を目的としない子供たちや家族連れなどの幅広い顧客層をも引き付けることができるでしょう。

写真:シュート体験アトラクション

写真:ヒップホップダンス

写真:バイクスタント

 このように、レッドブルズは試合興行を「サッカーを見るためだけの競技会」という位置づけではなく、「サッカーを中心とした(しかし、それに限らない)クールはエンターテイメントを体験できる場」として捉えていることが伺えます。つまり、「サッカーを見たい人にしか面白くない場所」からの脱皮を図っているのです。

 スポーツは運動会のような単なる「競技発表会」の場ではないはずです。地域コミュニティーの幅広いステークホルダーに対して多様な娯楽経験を提供する、その中心としてスポーツを位置づけることができれば、スポーツを人々の生活の中でウォンツ(Wants)からニーズ(Needs)に昇華させることができるのかもしれません。


量より質で勝負!? 〜MLSのスタジアム戦略に見られる遠謀深慮 (2006.03.13)

オーストリアの栄養ドリンク会社=レッドブル社がMLS(Major League Soccer)のニューヨーク・メトロスターズを3000万ドル(=約36億円)で買収しました。同社は、2008年にオープンが予定されている同チームのサッカー専用新スタジアムの命名権購入にも2000万ドル(=約24億円)を拠出すると見られ、総額で5000万ドル(=約60億円)の大型契約になると見られています。

 レッドブルは、アメリカでもとてもポピュラーな栄養ドリンクで、日本で言えば「オロナミンC」とか「リポビタンD」といったイメージでしょうか。買収後は、そのドリンク名がそのままチーム名となり、「レッドブル・ニューヨーク」となるそうです。

 実は、今日ご紹介するのはこの買収劇の話ではなく、レッドブル社も目を付けているMLSの新スタジアム戦略についてです。

 MLSは、日本のJリーグ開幕から3年後の1996年にシーズンを開始しました。12チームでスタートしたMLSは、2001年シーズン後に不採算チーム2つを削減しますが、昨年より2チームが新たに参入したため、再び12チームでのリーグ運営に戻りました。MLSの平均観客動員数(2005年)は15,108名で、これは昨年J1(18チーム)が18,765名であったのを考えると、Jリーグ(J1)を少し下回る程度の観客動員力があると言えそうです。

 しかし、動員数にばかり目を奪われてはいけません。MLSの平均観客動員数が伸びない背景には、Jリーグの浦和レッズやアルビレックス新潟のような平均観客動員で4万人を叩き出すようなマンモスクラブがないことが挙げられますが(2005年シーズンで最多を誇るロサンゼルス・ギャラクシーでも24,204名)、これはスタジアムの収容人数をリーグが意図的に3万人程度に抑えているためです。

 では、それはなぜでしょう?

 第1の理由は、“盛りあがり感”です。開幕時、MLS全チームはNFLや大学のフットボールスタジアムを借用して試合興行を行っていました。しかし、フットボールスタジアムの収容人数は5〜7万(ギャラクシーが当初使用していたローズ・ボウルにいたっては92,000名!)と、新興スポーツリーグにとっては大きすぎるものでした。仮に3万人の観客がいたとしても、それが3万のスタジアムなら満員ですが、7万のスタジアムではガラガラの印象になります。こうした“盛りあがり感”の違いは、スポンサーシップ料やテレビ放映権料などにも影響してきます。

 第2の(そして最大の)理由は、収益構造です。例えば、先ほどのメトロスターズは試合会場としてNFLニューヨーク・ジャイアンツの本拠地=ジャイアンツ・スタジアムを借用していますが、試合開催に際して、(収益率の高い)ラグジュアリー・スイートの利用は2室のみに限定する、スタジアム看板からの収入はゼロ、10ドル(=約1200円)の駐車場料からメトロスターズに入るのはわずか38セント(=約45円)と、極めて不利な利用条件となっています。しかし、これはジャイアンツ・スタジアムがジャイアンツのために作られたフットボール専用スタジアムであることを考えれば、仕方ないことでしょう。

 こうした状況を打破するため、MLSは1999年のコロンバス・クルーのサッカー専用スタジアム=クルー・スタジアム(Crew Stadium)の建設を皮切りに、ホームデポ・センター(LAギャラクシー)、ピザハット・パーク(FCダラス)、そして今シーズンからオープンとなるブリッジビュー・スタジアム(シカゴ・ファイアー)と4つのサッカー専用スタジアムを戦略的に建設してきました。

写真:MLSが新たに建設したサッカー専用スタジアム

 表からも分かるように、これらのサッカー専用新スタジアムは全て観客収容人数が3万弱のものばかりです。その代わり、ラグジュアリー・スイート(高級特別観戦室)やクラブシート(専用レストランやラウンジにアクセスできる特別席)といったプレミアムシート(高収益席種)を多く設置しています。例えば、ギャラクシーの本拠地=ホームデポ・センターには43のラグジュアリー・スイートと1500席のクラブシートがあり、これだけで年間500万ドル(=約6億円)の収入が見込まれています。つまり、同じ数の観客を動員するのなら、収益性の高い席種を多く設けたほうが、売上げが伸びるという考え方です。

写真:ラグジュアリー・スイート(ホームデポ・センター)

写真:プレミアムシート専用レストラン(ホームデポ・センター)



 また、サッカー専用スタジアムとすることで、スタジアム内での飲食や物販、駐車場などからの収入が適切にチームに還元される契約を締結しています。日本でも指定管理者制度が導入され、Jリーグでは鹿島アントラーズが、プロ野球でも千葉ロッテマリーンズがそれぞれカシマサッカースタジアム、千葉マリンスタジアムの指定管理者となりました。これにより、チームに確実に収益が還元される仕組みが構築されていくことでしょう。

 リーグ設立からちょうど10年が経ったMLSでは、アングロ・サクソン系とヒスパニック系双方を対象としたデュアル・マーケティングが功を奏し、「サッカー不毛の地」と揶揄された国で一定のサッカーファンを育成することに成功しました。この10年をフェーズ1と位置づけるとするなら、獲得・育成したファンから確実に収益を上げる仕組みを構築するのがフェーズ2と位置づけられるかもしれません。その意味で、MLSのスタジアム戦略は、フェーズ2の根幹を成すものと考えられるでしょう。


 

古くて新しい「魔法の杖」 〜スポーツビジネスにおけるCRMの本質を考える (2006.02.13)

 CRM(Customer Relationship Management)という考え方がビジネス界に登場してから10年近くが経過しました。語られる都度に「魔法の杖」のように今まで抱えていた顧客管理上の経営課題が見事に解決するかのような印象を与えるこのコンセプトは、しかし、10年をしてもまだ試行錯誤を繰り返す「古くて新しい」分野でもあります。

   誤解を恐れずに言えば、言葉は悪いですが経営コンサルティング会社やソフトウェア会社のうまい口上に乗せられすぎることなく、企業組織側に客観的に自らの問題点を検証し、それに対する過不足ないソリューションを考える力が求められていると言えるでしょう。というのも、コンサルティング会社やソフトウェア会社に頼りきりになってしまった結果、スポーツビジネス界も含め、オーバースペックな(必要以上の機能を搭載した)システムを導入してしまい、「後悔先に立たず」という状況になってしまった組織が少なくないからです。

 今回は、近年スポーツビジネス界でも何かと話題になるようになったCRMに関して、そのコンセプトを適用する上で考えておくべき本質的なポイントを整理してみることにします。

 まず、CRMを考える上で、スポーツビジネスにおけるセールス・マーケティング活動の本質について考えてみることは重要でしょう。いわゆる「スポーツビジネスの4大収入源」と言われるのが、@チケット販売、Aテレビ放映権、Bスポンサーシップ、C球場内の飲食・マーチャンダイズ販売ですが、これらの収益源は互いに影響を及ぼす有機的な関係にあります。

 一般的に、これらの収益源において最も先に着手すべきと言われるのがチケット販売です。なぜなら、チケットをより多くの人に販売し、ファンで一杯になった環境を作り出すことが、その他の収益源を活性化するためのきっかけになるためです。満員のスタジアムでの熱狂的な雰囲気があれば、テレビ局にとっても魅力的なコンテンツとなり(=テレビ放映権収入が上がる)、コンテンツ価値が高まればスポンサー企業に対するアピール力も強まる(=スポンサーシップ収益が上がる)、という好循環に入ります。グッズや飲食販売においては、観客が増えれば売る上げが増えることは言うまでもないでしょう(図1)。

図1:4大収益源の相関関係



 もちろん、リーグの成長過程や営業状況などによってこの優先順位は変化しますが、一般的に言って、スポーツビジネス=チケット販売業が基本となると考えて差し支えないでしょう。

 セールス・マーケティング活動の次に考えるべき点は、そのビジネスモデル(リーグ/チーム間で各収益源がどのように振り分けられているか)でしょう。スポーツリーグは、それぞれ独自のビジネスモデルを有するため、まずはチケット販売機能(特にオンラインでの)がどう配置されているかがどのようなCRMシステムを導入するかを見極める上で重要となるのです。

 例えば、MLBはインターネット事業をリーグが一本化するため、2000年6月に全30球団のオーナー投票により全会一致でネットビジネス専門の子会社=MLB Advanced Media(通称「BAM」)の設立を決めました。そして、2000年11月よりチームレベルのオンラインビジネスは全てMLBAMに移管されることになりました。つまり、MLBのオンラインチケット販売は全てリーグが主体となって実施しているのです。それに対して、NBAはMLBのようにオンライン収益源をリーグが中央管理していないため、チケット販売についてもオンライン/オフラインともに各チームが主体に実施しています。

 そのため、MLBにはリーグに大規模なCRMシステムが導入されており、逆にNBAでは各チームが個別にCRMシステムを導入しています(これは、MLBにチームレベルのCRMシステムがない、NBAにリーグレベルのCRMシステムがない、という意味ではありません。実際、それぞれ存在します)。このように、CRMシステム導入に際しては、スポーツビジネスのセールス・マーケティング活動の本質やそのビジネスモデルを精査した上で、機能配置を検討する必要があるでしょう。

 また、機能選択においては、決して大風呂敷を広げすぎないことも肝要です。技術的には、チケット販売やスポンサーシップ営業、飲食・飲食販売などの各セールス・マーケティング活動全般に渡るCRMシステムを導入することが可能ですし、それまで各部署に分散していた顧客DBを統合できれば、大きなシナジー効果を期待することが出来ます。米国では、スタジアムやアリーナといった施設自体や、そこをテナントとして用いる異なるスポーツのチームを複数所有するような組織もありますが、CRMシステムを用いれば施設・チーム間、あるいは異なるチーム同士でのクロスマーケティングを効果的に実施することが可能です。

 しかし、MLBやNBAでは、少なくないチームがオーバースペックなシステムを導入した結果、数年後にダウンサイズする、あるいは他社のシステムに変更するという選択を余儀なくされているのも事実です。

 最後に、CRM導入の成否を決めるのは、CRMシステムの能力ではなく、それを使うスタッフの能力や経営陣のコミットメントレベルであるということを肝に銘じておく必要があるかもしれません。アメリカでは全く同じCRMソフトウェアを導入しているチームでも、成功しているチームとあまり思わしくない結果しか残せないでいるチームがあります。筆者が見た限りでは、トップマネジメントからのコミットメントが強ければ強い方が、より高い確率で成功する傾向にあるようです。


ブラックアウトルール 〜フランチャイズ発展にテレビ放送が果たす役割(2006.01.11)

 あなたがボストンに住んでいる熱烈なボストン・レッドソックスファンだったとします。そして、今から宿敵ニューヨーク・ヤンキースとの対戦が、レッドソックスファンの聖地=フェンウェイ・パークで始まろうとしています。あなたはあいにくチケットを入手することができなかったので、自宅から応援することにしました。

 あなたはケーブルテレビの全国放送スポーツ専用局ESPNにチャンネルを合わせて同カードを観戦しようとしますが、画面が真っ黒で何も映りません。仕方がないので、衛星放送の「MLB Extra Innings」で同カードを観戦しようとしますが、こちらも画面が真っ黒です。あなたはパソコンの電源を入れ、加入しているMLB.TVでこのレッドソックス対ヤンキース戦のネット中継を見ようとしますが、やはり画面が真っ黒で何も映りません(参考資料)。一体、何が起こったのでしょう?

参考資料:ブラックアウトされたMLB.TVの画面



 これらは、別にテレビやパソコンの画面が故障していて映像が映らなかったわけではありません。意図的に画面がブラックアウトされているのです。このレッドソックスファンが試合中継を見ることができる唯一のチャネルは、地元テレビ局NESN(New England Sports Network)だけなのです。

 「放送とインターネットの融合が声高に叫ばれているこの時代に、なぜこのような不合理なことを行うのか?」という批判も聞こえてきそうですが、このブラックアウトルールには理由があります。ローカルテレビ放映権の保護です。アメリカプロスポーツにおけるフランチャイズの発展は、チームと地元テレビ局とのメディアパートナーシップ抜きには語れません。

 MLBを例に見てみましょう。MLBのテレビ放映権は、全国放送はリーグが、ローカル放送は各チームがその権利を有しています。2005年シーズンに、全国放送の放映権を有するFOX(地上波)とESPN(ケーブル)が放映した試合数は合計で183に過ぎません。これは1チーム当たり、年間たった12.2回しか露出されない計算となります。一方で、ローカル放送の放映権を有する地元テレビ局は、地元チームの年間162試合のほとんど全てを放映します。

 このことがどんな意味を持つかお分かりでしょうか?換言すれば、ローカル放送を中心に組み立てられている米国のプロスポーツ中継の役割ということになります。

 この仕組みでは、地元ファンはほとんど地元チームの試合しかテレビ中継で目にしないことになります。つまり、ボストンに住んでいればレッドソックスの、ニューヨークに住んでいればヤンキースかメッツの、シカゴならカブスかホワイトソックスの試合しかほとんどテレビではお目にかかれないのです。

 ローカル放送中心の試合中継は、地元チーム以外のテレビ露出が大きく制限されることになるので、フランチャイズを発展させていく上で非常に効果的な役割を果たします。何といっても敵チームの露出が少ないので、市民に認知される機会がなくなり、敵チームのファンが育成されないのですから。

 こうしたローカル放送中心の仕組みでは、言葉は悪いですが、ボストン市民は自動的にレッドソックスファンに、ニューヨーク市民は自動的にヤンキースかメッツファンに仕立てられていくことになります。こうしたチームとローカルテレビ局とのパートナーシップによる二人三脚の歩みが、今日のフランチャイズの基礎を形作ったといっても過言ではないのです。

 近年、衛星放送やインターネットの出現により、こうしたローカル放送中心の試合中継が崩れつつあります。ファンは、容易にマーケット外の試合中継もこうした技術を介して視聴することができるようになりつつあります。そのため、MLBはパートナーである地元テレビ局に配慮し、その権利を保護するため(視聴率の低下要因を排除するため)、地元局が放映する同じカードを、全国放送テレビ局や衛星放送、インターネットが放映する際は、冒頭のレッドソックスファンの例のように、地元テレビ受信地域に限り画面をブラックアウトさせることしたのです(受信外地域ではブラックアウトルールは適用されない)。

 地方分権のアメリカと、東京一極集中の日本という社会的差異を考えると、このテレビ放映の仕組みやブラックアウトルールがそのまま当てはまるわけではないでしょう。しかし、マルチメディア時代に突入し、テレビ放映だけでなくPCインターネットやモバイルインターネットにおける技術革新が進む中、スポーツ組織が複数のステークホルダーに対してどのような優先順位付けを行い、権利調整を実施するかという意味では、大きな示唆を与えてくれるかもしれません。



「トゥイーン」を取り込め! 〜長期的視野に立った戦略的ユースマーケティング (2005.12.13)

 「トゥイーン」という言葉を聞いたことがありますか?

 「トゥイーン(Tween)」とは、13〜19歳の「ティーンエイジャー(Teen-ager)」より更に若い、8〜12歳の世代を指す言葉です。米国ではこの世代の人口が2000万人とも言われていて、その購買力が急激に伸びているようです。ある調査では、2006年までに米国におけるトゥイーン世代の購買力は1900億ドル(=約22兆8000億円)にも達するとも見られています。

 多くの企業がこのトゥイーンマーケットをターゲットにしたマーケティング戦略を策定していますが、その理由は「トゥイーン」が新興マーケットであるためだけではありません。

 一般的に、「格好良い」という価値観が形成されるのはティーンエイジャーになってからだと考えられています。そのため、その価値観が形作られる前のトゥイーンのうちに、繰り返しブランドの刷り込みを行い、それを「格好良い」と思ってもらえるように仕向けるのです。マクドナルドの店舗には「ドナルド」の人形があったり、遊戯施設が併設してあるケースが多いですが、これも「トゥイーン」を意識した周到なマーケティング戦略だと考えられます。

 そして、スポーツ組織も、近年積極的にこのトゥイーン市場に攻勢をかけています。12月1日のPick Upトピック「子供心に残る原風景は消えることはない」で紹介したMLBシカゴ・カブスが地元AMラジオ局をタイアップして実施した「キッズアナウンサーを探せ」コンテストはその好例と言えるでしょう。

 また、NFLニューヨーク・ジェッツは、2003年より「Generation Jets」(ジェッツ世代)というトゥイーンとローティーン(ティンエイジャー前半)をターゲットにしたテレビ番組をCBSで開始しました。番組は、5人のジェッツファンの子供達が登場する30分のアニメーションで、随所に選手やコーチへのインタビューや、ジェッツの試合映像が盛り込まれています。

 こうした取り組みはチームレベルだけに留まらず、リーグレベルでも見受けられます。

 近年放映権契約が更新されたばかりのNFLは、以前の放映権契約が締結された1998年に、若年層をターゲットにグラスルーツ活動を展開することを目的とした非営利基金「NFL Youth Football Fund」を設立し、7年総額176億ドル(=約2兆1120億円)の放映権料の中から1億5000万ドル(=約180億円)をこの基金の活動費に拠出する合意をNFL選手会との間に結びました。NFL YFFでは、8つのコミュニティー支援組織を「全米ユースフットボールパートナー」と位置づけ、そこに助成金を出すという仕組みを構築して子供向けマーケティングにおける影響力を最大化しています。

 また、MLBも「Catalog for Giving」(施しのためのカタログ)と呼ばれる取り組みを実施しています。この取り組みでは、MLBが地域の野球やソフトボール振興に貢献している10のコミュニティー組織を選出し、それをカタログとして紹介することで寄付を募るというものです。

 このように、トゥイーンマーケットをターゲットにした様々なマーケティング活動がチーム/リーグレベルで実施されています。こうした活動はその効果を最大化させるためにも、NFLやMLBのように地域組織との連結は不可欠でしょう。また、資金的な側面を考えた場合、スポンサーシップという枠組みからのアプローチも有効になるかもしれません(ユーススポーツを用いたスポンサーシップのケーススタディーについては、来月の「スポーツマーケティング事例」にて紹介する予定)。

 トゥイーンはスポーツにとって大きな可能性を秘めたマーケットだけに、ブランドマネジメント、スポンサーシップ、グラスルーツ活動、地域サポートといった様々な側面からの総合的なアプローチが必要になるでしょう。



「出口」だけでなく「入り口」から 〜NFLにおけるキャリアサポートへの取り組み (2005.11.24)

 日本のプロ野球(NPB)では公式シーズンが終了し、今年から実施された分離ドラフトも高校生と大学・社会人の両ラウンドを終え、来シーズンより新戦力として加入する顔ぶれが揃いつつあります。NPBの今年のドラフトでは、96名が指名を受けました。このうちの全員が入団するわけではないにしろ、新入団選手と同数の選手は、現役引退を強いられることになります。Jリーグでも毎年約100名の選手がJリーグから離れ、新たなキャリアを模索します。

 Jリーグに、「キャリアサポートセンター」(CSC)が設置された2002年4月以降、日本でも引退後の第2の人生を意味する「セカンドキャリア」という言葉が使われるようになり、今では市民権を得るに至ったと言ってもいいでしょう。しかし、「セカンドキャリア」という言葉自体には、多少誤解を与える要素が含まれているかもしれません。

 「セカンドキャリア」=「第2の」+「職業」というイメージが強いので、どうしても「引退・退団後の」という印象が強くなってしまいます。しかし、単に引退・退団後の進路を整備するだけでは片手落ちと言わざるを得ないでしょう。なぜなら、それを活用する選手側に、その仕組みを十分に活かせるだけの生活/ビジネススキルやマインドがなくては、「画に描いた餅」に終わってしまうからです。

 特に、スポーツと武道が強く結びついている日本のスポーツ界では、複数競技を年間通してプレーする欧米と異なり、野球なら野球、サッカーならサッカーを1年中プレーする、いわゆる「野球道」「サッカー道」という考え方が根強く残っています。こうした環境の中で、競技を行いながら引退後の人生の準備をするのは簡単なことではありません。MLBミルウォーキー・ブリュワーズで活躍する大家友和選手が一昨年に立命館大学に入学しましたが、入学当時は「野球選手は野球に専念していればいいんだ。勉強している暇があったら野球をしろ」という意見もあったようです。

 しかし、「セカンドキャリア支援」とは、文字通りの「引退後の人生」が目前に迫ってから準備しても遅いのです。少なくとも、プロ選手であれば現役中、もっと言えば入団時から引退後の人生を見つめた視点を持たせるためのトレーニングをしておく必要があるでしょう。

 NFLでは、1991年にPlayer Development Department(PDD=選手育成部)がリーグに設置され、選手やその家族のキャリア支援に当たっています。PDDの使命は「現役・引退選手を問わず、家族や社会との関わりを充実させると同時に、個人的成長を継続的に促し、選手に生涯学習者としての意識をもたらす」というもので、各チームが実施する支援プログラムのガイドラインを作成し、各チームの専任担当者=Player Development Director(選手育成部長)と密なコミュニケーションをとって効果的なキャリア支援を実現しています。

写真:NFLにおけるキャリアサポート体制



 PDDのミッションからも分かるように、NFLにおけるキャリア支援は単に引退後のケアだけでなく、選手に生涯学習者としての意識を植え付ける点にあります。そのため、プログラムは選手が現役時代から活用できるように設計されています。PDDがチームに示しているガイドラインの骨子は以下の5点です。

@ 継続的な学習機会の提供(Continuing Education): 大学・大学院入学支援プログラムなど
A 財務的教育(Financial Education): 家計管理や税金対策など
B インターンシップ: ビジネスマナーの習得やインターンシップの実施など
C 生活支援: 金銭トラブルや健康問題など生活全般の支援
D 家族支援: 選手の家族サポート


 実際のキャリア支援プログラムは、このPDDのガイドラインに沿って各チームレベルで設計・開発されることになります。

 NFLのキャリアサポートで特筆すべきなのは、それが新人研修会に連動されている点でしょう。NFLは毎年6月末に、4月のドラフトで選出された全選手を対象とした新人研修会(Rookie Symposium)を実施しています。新人研修会といえば、新人選手としての生活準備やメディアトレーニングなどに主眼を置いた研修だと思われがちですが(もちろん、そうしたコンテンツも用意されていますが)、NFLでは「A lack of knowledge is a killer」(無知は命取りになる)を合言葉に、平均選手寿命が3年半と言われるNFL選手へのキャリア転向のサポートのみならず、選手引退後に生きていくための生活スキルの必要性を認識してもらうことを目的としているのです。

 この研修会では、「引退後の生活を成功させるために」と題した現役NFL選手によるパネルディスカッションが行われるなど、単にスポーツ選手としてでなく、一社会人として人生を送っていく上で必要な視点を養うきっかけとなっています。無断欠席した選手にはリーグより1万ドルの罰金が科せられることからも分かる通り、NFLはこの新人研修会をキャリア支援の側面からも非常に重要視していることが分かるでしょう。

 選手が自分自身をスポーツビジネスにおける単なるパズルの一端と割り切るのではなく、その仕組み=パズル全体の機能や、その中での自分の位置づけを客観的に認識することができて初めて一人前の社会人としての素養が身につくというものでしょう。

 このように、「セカンドキャリア支援」とは、引退後のケアという「出口」だけを見るのでなく、新人研修会という「入り口」や、現役生活中という「中間」からのサポートがあって初めて実効的に機能する仕組みであると言えるかもしれません。



戦いはシーズンオフから 〜マーケティングイベントとしてのドラフトの可能性(2005.11.10)

 ドラフトの本来的な目的としては、弱いチームに良い人材を供給することでチーム間の戦力を均衡させる「人材の均等配分」と、新人獲得において自由競争を意図的に避け、契約金を抑える(無駄な投資を控える)「契約金高騰の抑制」が挙げられます。ドラフト制度は上記の目的を達成するために、1936年にNFLのコミッショナー=バート・ベルが導入し、1947年にNBA、1963年にNHL、1964年にMLB、そして1965年に日本のプロ野球(NPB)に導入された経緯があります。

 奇しくも、MLBとNPBは2005年シーズンから今までのドラフト制度に変更を加えました。MLBでは昨年まで「前年度の勝率が低いチームから選択をする」という原則があったものの、「偶数年はナショナル・リーグ、奇数年はアメリカン・リーグのチームから選択を開始する」(つまり、偶数年ならナ・リーグ勝率最低チーム→ア・リーグ勝率最低チーム→ナ・リーグ勝率ビリ2チーム→ア・リーグ勝率ビリ2チーム→・・・)という仕組み(いわゆる「ウェーバー方式」)でしたが、今年からはリーグの縛りがなくなり、純粋に「(リーグに関係なく)前年度の勝率が低いチームから選択をする」という極めてシンプルな形に落ち着きました。

 一方で、NPBでは今年から「分離ドラフト」を実施し、高校生ドラフトと大学・社会人ドラフトを併用するスタイルに変更となりました。しかし、高校生ドラフトでは入札抽選方式が、大学・社会人ドラフトでは希望選手枠方式が採用され(ともに第一ラウンドのみ)、また選択順においても偶数ラウンドには前年度勝率が高いチームから選択する「逆ウェーバー方式」が残るなど、必ずしもドラフトの本来的な目的を達成するものにまではならなかったようです。

 ドラフトの制度上の問題点については、多くの専門家諸氏が指摘しているところですので、ここではドラフトの持つもう一つの可能性について考えてみたいと思います。

 ドラフトとは、新戦力となる新人選手がチームの一員として公にファンに紹介される日でもあります。NFLでは、ドラフトを開幕戦やオールスターゲームなどのマーケティングイベントと同列に扱われており、年間を通じたマーケティングプランの重要な一翼を担っています。

 例えば、NFLはアパレルカテゴリのオフィシャルスポンサー=リーボック(2005年8月にアディダスによる買収が決定)と共同でドラフトを同社のキャップやシューズなどの新製品PRの場として活用しています。ドラフトで選出された選手の記者会見の際、同社の新製品を見に付けることで戦略的にメディア露出を確保しています。また、ドラフトのロゴを作成し、その使用権をオフィシャルスポンサーにのみ許可するなど、ドラフトをスポンサーメリット創出のためのコンテンツと捉えたマーケティング活動を行っています。

 また、チームレベルでもドラフトをオフシーズンにおけるマーケティング上の重要なイベントとして位置づけています。NFLのほとんど全てのチームは、ドラフト開催に合わせてチーム独自の「ドラフトパーティー」を各スタジアムやホテルなどで実施しています。ドラフトパーティーで実施される内容はチームにより十人十色ですが、あるチームではシーズンチケット保有者やスポンサー関係者が優待参加できる特別イベントと位置づけ、高収益顧客への付加価値創出の場にしたり、別のチームでは入場料無料の「ファン感謝祭」的な位置づけのイベントとして実施しているところもあるようです。

 どのチームにも共通して言えることは、ドラフトで新入団選手への注目度を高めておくことで、シーズン開始までの盛り上がりを戦略的に醸成している点でしょう。特に、シーズンチケット保有者やオフィシャルスポンサーなどチームにとっての最重要顧客にオフシーズンの時点からチームや選手に対する関心を高めてもらうことは、彼らからのより長期に渡るコミットメントを引き出すきっかけとなり、ひいては収益の最大化につながるのです。

 NPBでは来週(11月18日)に大学・社会人ドラフトが実施される予定です。マーケティングイベントという観点からドラフトを捉えなおした時、ドラフトの持つ新たな可能性が見えてくるかもしれません。




スポーツも組織防衛を 〜阪神電鉄買収劇に学ぶオーナーシップルールの必要性(2005.10.11)

 元通産官僚の村上世彰(よしあき)氏が率いる投資ファンド(通称「村上ファンド」)がプロ野球の阪神タイガースを傘下に持つ阪神電気電鉄(東証1部上場)の株式を大量取得したことが、10月3日関東財務局に提出した株式の大量保有報告書で明らかになった。村上ファンドはその後も買い増しを続け、議決権のある株式の3分の1を保有することとなり、合併や取締役の解任といった阪神電鉄の経営意思決定上の重要事項に対する拒否権を行使できることとなった。

 さらに5日朝、村上ファンドがタイガースの株式上場を提案してきたことが明らかになると、阪神電鉄は同日、大和証券SMBCとの間に企業買収の防衛策などについて助言を受ける財務アドバイザリー契約を結ぶ方針を急遽決定した。とはいえ、阪神電鉄としても筆頭株主の意向を軽視するわけにもいかず、6日「村上ファンドと対決姿勢にあるわけではない」との異例のコメントを発表するに至った。

 マスコミ報道によると、日本プロ野球組織(NPB)の根来泰周コミッショナーは、球団株の上場について「今の野球協約上では白紙」としながらも、「上場とは投機の対象となること。スポーツが売り買いになるのはどうか。」とコメントしており、読売ジャイアンツの渡辺恒雄球団会長も「プロ野球は社会的な国民の公共財産。(上場すると)公共財ではなくなり、協約違反になる」と話すなど、多くの議論を呼んでいる。この問題は11月4日に開催されるオーナー会議で野球協約改正の是非も含めた議論が行われることになるという。

 野球協約第3条は「野球が社会の文化的公共財となるよう努めることによって、野球の権威および技術に対する国民の信頼を確保する」と定めている。

 奇しくも、今回の一件は今年2月8日にライブドアがニッポン放送(東証2部上場)の発行済み株式の約35%を取得し筆頭株主となり、その“子会社”であったフジテレビへの影響力行使を図ったのと同じ構図である(当時ニッポン放送は発行済み株式の22.5%を保有するフジの筆頭株主であった)。この時は、「TOB」「ホワイトナイト(白馬の騎士)」「貸し株」といったM&A用語がお茶の間をにぎわせ、企業買収が一気に市民権を得た感があったが、今回はそれがプロスポーツ界に飛び火した格好となった。

 今回の一件から得られる教訓は、プロスポーツ界も企業買収の波からもはや無縁ではなく、M&Aに対する組織防衛策を講じる必要が出てきたということだろう。

 米国プロスポーツに目を転じてみると、どのプロリーグもフランチャイズの所有については、その適格基準を定めた「オーナーシップ・ルール」を有している。中でも最も厳格なオーナーシップ・ルールを定めているのがNFLである。

 NFLは米国4大プロスポーツにおいて、唯一チームの株式上場(Public Ownership)を禁止しているリーグである(市民がチームの株式を保有していることで有名なグリーンベイ・パッカーズは、このルール適用前に株式公開したNFL唯一の例外)。現在、メジャースポーツで株式を公開しているチームは、NBAボストン・セルティクス、NHLフロリダ・パンサーズなどごく少数である。仮に日本でもPublic Ownershipが禁じられていれば、村上ファンドによるタイガース上場の提案は拒否できることになる。

 NFLは、さらに上場企業によるチーム所有(Corporate Ownership)をも禁じている唯一の4大スポーツである。現在、米国には株式を公開している上場企業によって約60のチームが保有されていると言われているが、NFLは基本的にはチームの運営を主目的とした個人/組織によるチーム保有しか認めていない(サンフランシスコ・49ersは唯一の例外)。仮に日本でもCorporate Ownershipが禁じられていれば、村上ファンドのような投資ファンドが筆頭株主としてチームに影響力を行使すること自体ができないことになる(もっとも、そうするとチーム保有ができなくなる企業も出てくるが・・・)。

 厳格なオーナーシップ・ルールを定めているNFLはほんの一例であり、これが全てのリーグにとっての正解とはなり得ないが、それぞれのプロリーグのミッションと照らし合わせながら、どのようなフランチャイズオーナーが望まれているのかを話し合う際の参考にはなるだろう。特にCorporate Ownershipを許容する場合は、株主構成がより複雑化する今日の情勢を鑑みた上で、複数のプロスポーツを所有するCross Ownershipや、同一リーグ内の複数チームに少数比率オーナーとして参加するIntra-Ownershipなどの観点からの議論も必要になるだろう。

 また、米国ではこうしたオーナーシップ・ルール自体が反トラスト法(日本で言う「独占禁止法」)に違反するという意見もあるため(事実、NFLのオーナーシップ・ルールは反トラスト法訴訟で一部敗訴した過去を持つ)、日本でもこうした法的リスクも鑑みた上での組織防衛策が必要とされていると言えるかもしれない。



昨日の敵は今日の友 〜マイナーリーグ・プロモーションセミナーの中身とは?(2005.10.05)

先週、テネシー州メンフィスで開催された「マイナーリーグ・プロモーショナル・セミナー」に出席してきました。今年で26回目を迎えたこのセミナーは、毎年マイナーリーグのシーズンが終了した9月下旬から10月上旬に実施されるもので、シングルAからトリプルAまでの全マイナーチームのGMやチケット販売/スポンサーシップといった領域のマーケティング担当者を対象に開催される情報共有会です。

 セミナーでは、それぞれのチームがそのシーズンに最も成功したマーケティング/プロモーション事例を持ち時間30分〜1時間程度で紹介していきます。今年も26チームのGMやエグゼクティブが2泊3日に渡りプレゼンテーションを行いました。参加者も、過去最多の260名以上を数え、日本からも横浜ベイスターズや楽天イーグルスのスタッフの顔も見受けられました。

写真:プレゼンテーションの模様


写真:参加者の模様


 今年のセミナーの面白い点は、昨年までホテルの会議室やホールを利用して行っていたのに対して、球場のスイートボックス階を借り切って実施した点でしょう。今年会場となったメンフィス・レッドバーズ(セントルイス・カージナルス傘下トリプルA)の本拠地=オートゾーン・パークは、2000年に総額8000万ドル(=約88億円)で建設された約15000名を収容するとても美しいスタジアムで、トリプルAのスタジアムとしてはスイートルームやクラブシートといった高収益席種を多く備えている最先端の球場です。こうした最先端設備を実際に肌で感じることができることも、セミナーの提供する大きな付加価値の一つとなっています。

写真:オートゾーン・パーク


写真:スイートボックスの様子


 セミナー会場では、GMらによるプレゼンテーションに加え、グッズ製造業者やエクイップメント業者、メディアなどによるトレードショーも開催されており、その場でオーダーすることも可能になっています。また、ジョブフェア(求人説明会)も併せて実施されており、マイナーリーグ各チームからの求人情報を収集することもできるようになっています。

写真:トレードショーの様子


 以前のSMCレポート「第三の波は「情報」の均衡化 〜成功するリーグ経営のための必要要件とは?」でもご紹介したように、米国ではこのセミナーのようにリーグが主体的なイニシアティブを取ったチーム間の情報共有が積極的に実施されています。考え方によっては「チームの秘密を競合チームに打ち明ける」ことになるこうした情報共有会が近年積極的に実施されるようになってきた背景には次のようなことが考えられます。

 第1に、フランチャイズが根付いていれば、たとえマーケティング上の秘密を打ち明けたとしても自チームが被害をこうむるリスクが少ないためです。そして、第2に(これが最大の理由だと思われますが)、エンターテイメントが多様化する今日、スポーツ業界内の競争だけに視野を奪われていると、結局他のエンターテイメント産業にパイを取られてしまうからです。

 映画産業や遊園地産業、テレビゲーム産業など、スポーツ産業の競合産業との競争は年々激化する一方です。こうした競争環境下では、「パイを奪い合う」より「パイ自体を広げていこう」とする思想の方がその産業の長期的・持続的な成長にとって必要なのです。これはチームレベルよりも、むしろリーグレベルのミッションと言えるでしょう。



スポーツがその真価を問われる時 〜災害支援における社会的存在としての活動 (2005.09.21)

 ハリケーン「カトリーナ」がルイジアナ州やミシシッピ州などのアメリカ南東部を襲ったのは、8月29日のことでした。それから約3週間たった9月19日現在、被災地全域での死者数は880人にも達しており、アメリカ建国以来未曾有の自然災害となりました。被害総額は250億ドル(=約2兆7500億円)とも言われており、災害復興には何年もの歳月を要すると思われます。

 洪水で市の約80%が冠水したニューオリンズでは、災害直後は略奪や強盗、銃撃戦などが頻発し、近代都市としての機能は完全に麻痺していたといっても過言ではありませんでした。そのような状況の中、救援活動において連邦政府や州政府などの行政、消防・警察当局や湾岸警備隊などと同様に都市の機能を取り戻し、人々の暮らしに生きる活力を与える手助けをしたのが、スポーツでした。

 NFLやMLB、NBAといったメジャープロリーグは、いち早くリーグ挙げての支援提供を表明しました。

 シーズン開幕を目前(9月8日)に控えていたNFLは、9月1日にアメリカ赤十字に対する100万ドル(=約1億1000万円)の寄付を表明するとともに、試合会場となる各チームのホームスタジアムにおいて各種寄付を取り付ける体制を整え、コミッショナー=ポール・タグリアビューや、災害地域出身のペイトン・マニング(インディアナポリス・コルツ)、ブレット・ファーブ(グリーンベイ・パッカーズ)、スティーブ・マクネア(テネシー・タイタンズ)といったスター選手がファンに募金を呼びかける公共放送をオンエアしています。

 また、NFLはブッシュ、クリントン両元大統領が設立した「ブッシュクリントンカトリーナ基金」と協力し、積極的な募金活動のイニシアティブをとっています。こうした支援活動のお陰で、シーズン開幕時点でチームオーナーや選手、コーチからだけでも800万ドル(=約8億8000万円)にものぼる募金が寄せられています。

 さらに、NFLはシーズン第2週(9月18、19日)を「ハリケーン救済ウィークエンド(Hurricane Relief Weekend)」と名づけ、「回復 復興(Recover Rebuild)」のテーマの下に、各試合会場で積極的な募金活動を展開する計画を発表しました。特筆すべきは、18日(日)に被災地で開催が予定されていたニューオリンズ・セインツ対ニューヨーク・ジャイアンツ戦を、19日(月)に「マンデー・ナイト・フットボール(MNF)」としてニューヨークで開催する決断をしたことです。

 MNFと言えば、NFL16試合中、その週で最も人気の1カードを月曜日に繰り越して開催することで知られていますが(その他の15試合は基本的に全て日曜日に開催)、19日には既にワシントン・レッドスキンズとダラス・カウボーイズの一戦がスケジュールされていました。こうした中、例外的にMNFを急遽ダブルヘッダー開催としたNFLの決定に裏には、放映権を持つテレビ局やスポンサー企業との一致団結した協力体制が透けて見えます。

 ご存知の通り、NFLの放映権は曜日と時間帯で細分化されて販売されています(日曜午後のAFC:CBS、日曜午後のNFC:FOX、日曜夜:ESPN、月曜夜:ABC)。当初日曜日の午後に放映される予定のセインツ(NFCに所属)の試合がMNFに移ったということは、FOXで放映される試合が、ABCに移ったということです。NFLの決断の裏にはテレビ局間やテレビCMスポンサー企業などとの調整があったことは容易に想像できます。FOXがNFLに8年契約、総額44億ドル(=約4840億円)もの放映権料を支払っていることを考えれば、「ハリケーン救済ウィークエンド」というプランを示し、利害関係者との折衝を素早く終えてしまうNFLのリーダーシップには驚かされます。

 19日のMNFでは、試合開始に合わせて電話による募金活動も同時に開始されましたが、ジョン・エルウェイやホーウィー・ロングといった元スター選手や多くの殿堂入り選手が電話の受付にボランティアで出演していたのは、NFLの心憎い演出と言えます。

 このように、強力なリーダーシップのもと、フランチャイズ制という仕組みを災害支援に活かしているスポーツはNFLだけではありません。

 MLBも各試合会場で募金活動を行ったり、MLB.comでオンラインショッピングする毎に1ドルの募金を行うなどの支援活動を開始しています。災害以降、選手はヘルメットに赤十字をつけてプレーを続けています。

 NBAは、シーズンオフであるにも関わらず、解説者ケニー・スミス氏(元ヒューストン・ロケッツ選手)の呼びかけで、「NBA選手ハリケーン救済ゲーム(NBA Players Hurricane Relief Game)」を9月11日に開催しました。ゲームにはコービー・ブライアントやレブロン・ジェームズ選手などの多くのスター選手が参加し、100万ドル(=約1億1000万円)以上の募金が寄せられました。

 火事が起こった時に消防車が出動しなかったら、事件が起こった時に警察がいなかったら、私たちの生活には大きな支障がでることでしょう。スポーツがこうした公共サービスと同じような「なくてはならない社会的存在」になるためには、人々が助けを求めている時にこそ、その真価が発揮されると言えるかもしれません。それは、何も今回のような支援災害復興支援に限るものではないでしょう。

 カトリーナの災害支援に積極的に参画するスポーツリーグの活動を目の当たりにするにつけ、「コミュニティー・リレーション」という使い古された言葉の真の意味を垣間見た気がしました。スポーツが単なるエンターテイメント体験の創出に留まらず、地域社会との関係を通して人々の生活に欠かせない存在になることこそ、日本においてスポーツが人々の「ウォンツ」から「ニーズ」に変わるための必要条件なのかもしれません。



プロ・アマ間の“共食い”を防げ! 〜米フットボール界に見られる住み分けの論理 (2005.09.07)

 8月の第4金曜日にNFLのプレシーズンゲーム(ニューヨーク・ジャイアンツ対ニューヨーク・ジェッツ)を観戦してきました。平日の試合(キックオフは午後8時)にも関わらず、地元同士の対戦ということもあり、約79000名収容のジャイアンツ・スタジアムはその9割以上が埋まる盛り上がりでした(公式入場者数は77104名)。平日のオープン戦にも関わらず、7万人以上の観客を集めるNFLの人気には舌を巻くばかりですが、実はレギュラーシーズンに入ると、NFLの試合が金曜日に開催されることはありません。

写真:試合開始直前の模様



写真:ほぼ満員の観客スタンド



 ところで、9月に入り、先週末にはカレッジフットボールが開幕、今週木曜日(8日)のNFL開幕を控え、アメリカでは待ちに待ったフットボールシーズンの到来です。しかし、ハリケーン「カトリーナ」の影響で大打撃を受けたニューオリンズでは、セインツの本拠地=スーパードームが被災者の緊急避難場所に用いられるなど、その開幕が危ぶまれています。ハリケーンといえば、昨年のマイアミ・ドルフィンズの開幕戦もハリケーン「アイバン」の影響で試合日程を一日前倒しし、土曜日の試合に急遽変更されたことは記憶に新しいところです。しかし、この試合がテレビ中継されなかったことは意外に知られていません。

 実は、NFLが金曜日にレギュラーシーズンゲームを開催しないのにも、昨年のドルフィンズの土曜日に変更されたシーズン開幕戦がテレビ放映されなかったのにも、深い関連と理由があります。

 米国フットボール界では、高校フットボールは金曜日の夜、大学フットボールは土曜日、プロフットボールは日曜日と月曜日という様に、試合日の住み分けが出来ています。つまり、週末が過ぎるにつれ、よりレベルの高いフットボールが観戦できるようになっているのです。NFLは32チームによる16試合のうち、原則として15試合を日曜日に行い、最も人気の高いカードを「Monday Night Football」として月曜日に放映しています。このように、MNFをいわばメインイベントとして据え、金曜日の高校の試合からを前座と位置づけて、フットボール界全体で週末を盛り上げているのです。

 また、レベルの高いリーグが低いリーグの人気を食い荒らさないようにすることも、試合日程を住み分ける理由のひとつです。例えば、NFLと大学フットボールの試合日程がバッティングしてしまうと、多くの人はレベルの高いNFLを観戦するでしょう。そうなれば、大学フットボールは人気獲得の機会を失うばかりでなく、放映権契約を結んでいるテレビ局やスポンサー契約を結んでいる企業などにもマイナスの影響が波及する可能性すらあります。そのため、フットボール界では“共食い”を防ぐために試合日程の住み分けを実施しているのです。事実、1961年に制定されたスポーツ放送法(Sports Broadcasting Act)には、高校、大学フットボールが慣例的に試合開催を予定している日にはプロフットボールは試合中継を行ってはならない旨が銘記されています。

 つまり、NFLが金曜日にレギュラーシーズンゲームを開催しないのは、高校フットボール界に配慮した結果であり、ドルフィンズの開幕戦がテレビ放映されなかったのは、スポーツ放送法の精神に従い、NFLが大学フットボール界に配慮した結果だったのです。

 そのスポーツで最高峰のプロリーグが長期的に発展していくためには、アマチュア界の健全な発展とそこからの優秀な人材の流入が不可欠です。こうしたプロ・アマが手を取り合い、お互いの力を最大限に引き出すために協力するという思想は、スポーツ産業が他のエンターテイメント産業との熾烈な顧客争奪競争を勝ち抜いていくために不可欠な要素と言えるかもしれません。




発想の転換で人材と夢の好循環を 〜グラスルーツ活動としてのトライアウト (2005.08.23)

 男性であれば、子供の頃に一度は「プロのスポーツ選手になりたい!」と思ったことがある人も多いでしょう。しかし、物心がつき、中学生高校生と年を重ねるにつれ自分がどれくらいの選手なのかがぼんやりと分かってしまい、多くの人がプロスポーツ選手という職業は、自分とは縁のない夢の世界だと割り切って大人になっていくことでしょう(筆者もそうでした)。

 しかし、もし一度でもいいから、自分がそんな夢の世界の延長線上に身を置くことができたら、もし一日だけでもそんな夢の世界の一員となれたらどうでしょうか。そんな機会を提供するのが、オープントライアウトかもしれません。

 MLBでは6月から8月にかけて、リーグのスカウト局(Major League Scouting Bureau=MLSB)やチームのスカウト部が主催するオープントライアウトが開催されます。「オープン」と名が付くだけあり、参加資格は年齢制限だけ。例えば、2005年にMLSBが全米22箇所で開催するオープントライアウトの参加資格は「16歳以上であること」だけ。プロ経験の有無も性別も人種も関係なし。参加費も無料です。

 MLSBのトライアウトは大抵朝9時から開始されます。最初の30分ほどはスカウト局のスタッフが当日の簡単なスケジュールや注意点などを説明した後、MLBがダイヤの原石を探すためにオープントライアウトにいかに真剣に取り組んでいるか、しかし、それがいかに狭き門であるかを説明します。聞いている参加者の目は真剣そのものです。

写真:スタッフの説明に耳を傾ける選手達


 参加者は、100名を超えることもしばしばで、多くは高校や大学を卒業したての20歳前後の男性ですが、中には最近チームを解雇されたマイナーリーグ選手などに出会うこともあります。また、素人目から控えめに見てもプロ選手となるには程遠い人や女性が参加している場合もあります。そういった人たちは、本気でプロを目指しているというよりは、むしろ「子供の頃からの夢を一日だけ叶える」ためにやってきた人たちでしょう。しかし、MLSBは彼らを拒みません。

 トライアウトは午前・午後の2部制で行われ、午前中は個人の基礎体力やスキルを調べるために時間を費やします。投手ならばピッチング、野手ならば走力と守備といった具合にテストを行い、ある一定レベルのスキルを持つ選手が、実戦形式の午後の部に選ばれます。

写真:ノックを受ける内野手


 トライアウトは思いのほかほのぼのとした雰囲気の中で行われ、参加者の親や友人、野球好きな人などが弁当持参でのんびりとトライアウトの様子を観戦します。参加資格が「16歳以上であること」だけであるため、午前の部では素人同然の選手が参加しているケースもあるのですが、そこは自由と平等の国=アメリカだけあって文句を言う人は一人もいません。むしろ、チャレンジ精神を好むアメリカ人は、その参加する勇気を称え、ノックを見事にキャッチしようものなら、大きな拍手が沸き起こったりもします。そして、こうした所にMLBの懐の深さ、文化としての成熟度の高さを感じます。

 休憩を挟み、午後の部に入る前に参加者が全員集められ、午後の部に進むことが出来る選手が発表されます。午後の部になると、さすがにレベルは一気に高くなり、練習試合形式での実践トライアウトがはじまります。投手が打者3人を相手に投げ続け、投手が一回りした時点でトライアウトは終了します。

写真:午後の部に進むことができる選手の発表


 目ぼしい選手には、MLSBのスタッフから声がかかりますが、それは1会場に1人いるかいないかくらいのもので、しかもどこかのチームに即入団というわけではありません。その後別のトライアウトに呼ばれたり、個別に何度もテストを受け、更にふるいにかけられた上で、ようやくマイナー契約が結ばれるという具合です。契約を勝ち取る可能性は、限りなくゼロに近いといっても過言ではないでしょう。

 しかし、MLSBはトライアウトをやめません。なぜでしょうか?それは、オープントライアウトにグラスルーツ活動の意味合いがあるからだと考えます(もちろん、見過ごされていたダイヤの原石を探すセーフティーネットという位置づけもあるとは思いますが)。

 事実、前述の通り、このトライアウトは「子供の頃からの夢を一日だけ叶える」場としての役割を持っています。たった一日だけでも、夢にまで見たMLBに触れることができるのですから。参加者からしてみれば、これ以上の経験はないでしょう。これが参加者やコミュニティーの間に好意(Good Will)を生み出すのは言うまでもありません。

 もう一つは、人材の流通を活性化させ、草の根を広げる役割です。実はこのトライアウトにはMLBからだけではなく、地域の高校や大学の野球部、独立リーグなどからもスカウトが訪れているのです。そのため、例えMLBのレベルに達していない選手でも、独立リーグや大学、高校にスカウトされれば、せっかくの才能の芽を摘むことなく、育てていくことができるのです。つまり、トライアウトが人材流通のハブとしての機能を果たしているのです。

 このように、MLSBのオープントライアウトには、MLBを頂点に縄張り意識のない組織間の連携がスムーズに取られている様子を伺うことができるのです。トライアウトを単なる人材獲得の実務的な手段としてでなく、発想を変え、グラスルーツ活動の延長として捉えることができれば、効果的に才能と夢を循環させることができるかもしれません。

【参考】
・MLSBのオープントライアウト情報はこちら
・MLBチームのオープントライアウト情報はこちら





チケット再販市場がアツい 〜リセール市場確立の真の狙いは何か? (2005.08.09)

 日本のプロ野球史上初のストライキを経験した昨年以降、プロ野球のみならず、日本のスポーツ界全体が「経営」という視点からファンの耳目を集めるようになりました。その結果、多くのスポーツリーグ/チームが、今まで以上に顧客満足度(CS)の向上という観点から、各事業戦略を見つめ直すきっかけとなりました。

 スポンサーシップでは、前々回のレポートでもお伝えしたとおり「アクティベーション」をキーワードに、単なる露出媒体の域を超え、よりスポンサー企業の経営課題にソリューションを提供する方向性に進みつつあると言えます。チケット販売においても、ファンの潜在ニーズに応える形で、人気カードを集めた「パッケージチケット」や、単に試合観戦以外にスタジアムツアーや選手へのアクセスを含めた「バリューパック」などのチケットが登場しています。

 こうした動きの中で、チケットの再販市場がにわかに関係者の注目を集めています。「再販市場」とは、チケットの転売が行われる売買マーケットのことで、オークションを通じたチケット売買や、いわゆる“ダフ屋”が介在した形でのチケット購入などが、これに当たります。今までは、アンダーグラウンド的な色彩が強かったこのチケット再販市場に、昨今チームが積極的にコントロールしようと躍起になっています。今回は、このチケット再販市場のアメリカでの事情を見てみることにします。

 アメリカでは、従来eBayといった一般オークションサイトや、TicketsNowStubHubといったエンターテイメントイベント専用のオンラインチケット再販業者などの第三者(もちろん、ダフ屋も含む)によりチケットの再販が行われてきました。しかし、近年になるとチームが積極的にチケット再販に関与するようになってきました。その背景として、以下の2つのポイントが考えられます。

 第一に、ダフ屋の締め出しです。チケット再販からダフ屋の介入を排除し、市場をオープンなものにすることで、チケットが不当に高い値段で取引されたり、額面割れの価格で取引されるのを防ぐのです。見たい試合のチケットを入手するために不当に高い金額を支払わざるを得なければ、結果としてファンのCSを損なうことになす。また、逆に額面より安い値段でチケットが入手できてしまえば、正規ルートのチケットが売れなくなります。このように、ファンのCSに配慮し、チケットの値崩れを防ぐことにチームが本腰を上げてきたことが第一の背景です。

 第二は(こちらがメインですが)、高収益顧客、すなわちシーズンチケット保有者のCS向上です。チケット販売での鉄則は、「新規顧客獲得<既存顧客の維持」、そして既存顧客の維持においても、収益性の最も高いシーズンチケット保有者の更新率を高めることです。チームは、あの手この手でシーズンチケット保有者のCSを向上するための手厚い努力を行ってきています。その1つが、シーズンチケット保有者が試合観戦できない日のチケットを、試合観戦したい別のファンに転売できる仕組みを作ることで、シーズンチケット保有者の「もったいない感」を取り除くことができるのです。

 今では、チーム公式HP上で再販をオープンに行うチームも出現するようになりました。現在MLBでは、エンジェルス、インディアンズ、マリナーズ、アストロズ、ドジャーズの5チームが公式HPでチケットの再販を行っています(再販されるチケットのほとんどがシーズンチケット)。今までは、煩わしい書類上の手続きを経なければ自分のチケットを他人に渡すことはできなかったものを、オンラインによって手軽に売りに出すことができるようになったのです。

 こうした仕組みが機能すれば、シーズンチケット所有者も「せっかく買ったシーズンシートなのに、行けない日のチケットは払い戻せないし、なんだかもったいないなぁ」という不満を解消することができ、最重要顧客が離反するリスクを抑えることができます。チームにしても、(チケットは売れているが)観客が現れないはずの試合に別の観客を呼び込むことができれば、飲食やグッズ販売の売上げが上がり、またシーズンチケットの良さを知ってもらうための絶好なトライアルにもなるのです。

 このように、チケット再販市場へのチームの関与は、高収益顧客のCSを向上し、チケット価格体系を守ることが主な目的となっているようです。




第三の波は「情報」の均衡化 〜成功するリーグ経営のための必要要件とは?(2005.07.26)

 成功するリーグ経営のためには、チーム間でのある一定レベルでの経営規模と人材(=選手)の均等化が必要なのは、昨今多くの専門家が指摘する通りです。前者を実現する仕組みとしては、放映権といった巨額の収益をリーグが管理し、それをチームに分配する収益分配制度が挙げられますし、後者のそれとしては、ウェーバー制のドラフトやFA制度が挙げられるでしょう。

 アメリカのメジャースポーツにおいても、どのレベルまで均等化を進めるかはリーグのビジネスモデルによりまちまちですが、例外なくこうしたある意味「共和制」ともいえる仕組みを取り入れています。スポーツ産業の製品である「試合」=複数チームのパフォーマンスが織り成す成果物であることを考えると、ある程度チーム力を均衡させることは必要でしょう。

 そして、こうした「経営規模」や「人材」を均衡化する仕組みの次に来るのが、情報の均衡化でしょう。NBAでは、既に2000年より「チーム間の情報共有を進め、各チームのマーケティング力を活性化させる」ことをミッションにしたチームマーケティング/事業運用部をリーグに設置し、同時に同部署内にスポーツマーケティングの専門家を集めたSWATチームを編成して、各チームのマーケティング活動のサポートに当たらせています。

 このNBAによる試みは、よくありがちな「リーグがチームを指導する」という「上意下達」型のサポート(押し付け?)ではなく、ある意味リーグがチームを顧客と捉えて、それぞれが持つユニークなマーケティング力を引き出し、それを活性化させるという点で画期的な取り組みと評価されています。

 リーグが主体的なイニシアティブを取ってチーム間の情報共有を進めるのは、何もメジャーレベルのスポーツだけではありません。例えば、マイナーリーグベースボールでは、毎年リーグがシーズン終了以後に各チーム(シングルAからトリプルAまで)のGMやマーケティング担当者を一同に集め、各チームが今年一番効果のあったマーケティング事例を共有しあうセミナーを開催しています。セミナーは2泊3日にも及び、各チームに眠る実効的な情報が担当者レベルで共有されるほか、ソフトボール大会やバーベキューなども開催され、非常にアットホームな雰囲気で情報共有や人脈作りが行われます。

 実は筆者も昨年のセミナーに参加させてもらったのですが、やり取りされる情報の豊富さ、質の高さもさることながら、そのオープンな雰囲気に非常に大きなインパクトを受けました。ある意味「チームの秘密を競合に打ち明ける」ことになる訳ですが、リーグ全体を盛り上げていこうとする関係者の使命感の強さ、懐の深さに脱帽しきりでした。

 このように、アメリカではリーグがイニシアティブを取ってチーム間に偏在する情報の均等化を進めている例は少なくありません。「経営規模の均等化」、「人材の均衡化」に次ぐ第三の波は、「情報の均等化」かもしれません。




なぜ今「アクティベーション」なのか? 〜スポンサーシップの本当の意味を考える (2005.07.12)

 近年、米国プロスポーツのスポンサーシップ担当者と話していると、「アクティベーション(Activation)」、「レス イズ モア(Less is More)」という言葉をよく耳にする。「Activation」は「活性化」を意味し、「Less is More」は「少なくする(Less)ことで多くする(More)」を意味するフレーズである。そして、この聞きなれない2つの単語は、実は密接に関係している。

 1984年のロサンゼルス・オリンピックによってその原型が形作られた近代スポーツスポンサーシップは、1990年代に入りアンブッシュ・マーケティングの活発化や衛星放送やインターネットといった技術革新により、スポンサーシップ・インベントリ(イベントの冠や看板広告、ロゴ使用権といった、スポンサーシップの対象となる資産)が爆発的に増加することとなった。同時に、スポンサー企業側にもスポンサーシップの経験曲線の上昇から、そのノウハウが蓄積されて始め、「スポンサーシップの多目的利用」というベクトルが生じることになり、スポンサーシップの形態が多様化・複雑化することになる。スポーツ組織は我先にとスポンサーシップ・インベントリを開発し、スポンサー企業にその利用権を販売していったのである。

 しかし、21世紀に入り、スポンサーシップの権利料がうなぎ登りで上昇していく一方で、米国経済の停滞に歯止めがかからなくなると、投資対効果が厳密に求められるようになってきた。それまでは単なる露出媒体としての域を出なかったスポンサーシップに、「成果」が求められるようになってきたのである。

 「本当にこのスポンサーシップ・インベントリに投資をして効果がでるのか?」

 実は、「アクティベーション」も「レス イズ モア」も、スポーツ組織、スポンサー企業双方がこの問いを自問自答した結果生まれた言葉であった。

 スポーツ組織は無意味に増えすぎたスポンサーシップ・インベントリをスリム化し(=Less)、今までの「とにかくインベントリを創り出して売る」ことに主眼を置いていた方針を、「効果のあるインベントリを厳選し、単にそれを売るだけでなく、効果的な活用方法を模索することで付加価値を増大させる(=More)」ことに変換していったのである。この方針変換が、「レス イズ モア」であり、「効果的な活用方法を模索する」ことが「アクティベーション」の意味するところなのである。

 それは、単に作れば売れた「プロダクト・アウト」の時代から、顧客(=スポンサー企業)のニーズに合うものを取り入れ商品化する「マーケット・イン」の時代へスポーツスポンサーシップが変容して言ったことを意味する。

 アクティベーションの一例を挙げよう。NFLジャクソンビル・ジャガーズは、ガソリンスタンドカテゴリのローカルスポンサー=Gate Petroleum's(ゲート・ペトロレウム社)と共に、同社のガソリンスタンド内に設置されているコンビニエンスストアに顧客を誘導すべく、クロスプロモーションを展開し、スポンサーシップ・アクティベーションに寄与している。

 このクロスプロモーションは「Jag Dollarsプロモーション」と呼ばれるもので、同社ガソリンスタンドで合計8ガロン(=約32リットル)以上の給油を行ったレシートと同ガソリンスタンドのポイントカードをコンビニエンスストア内のレジに持参すれば、その場で2ドル相当の「Jag Dollars」と呼ばれる金券と引き換えてくれるというもの。「Jag Dollars」はジャガーズの本拠地=オールテルスタジアム(ALLTEL Stadium)内のグッズ店や飲食店でのみ使用可能な金券。

写真:Jag Dollars


 この「Jag Dollarsプロモーション」では、「ファンが欲しいものはチームに関連するもの」という基本に立ち返り、安易な割引クーポン配布をやめ、どのファンも欲しがるであろう「Jag Dollars」を引き換えにするということで顧客誘導を図った。このプロモーションの秀逸な点は、レジまで足を運ばせることが出来れば、ガソリン代の支払いに合わせてコーヒーやドーナツ、飴、ガムなどのクロスセルが期待できるものの、カード社会である米国では、多くの消費者が屋外の給油口で支払いをカード決済してそのままガソリンスタンドを後にしてしまうため、レジまで足を運ぶことが少なく、販売機会をロスするケースが多いという業界特有の顧客行動に影響を与えることが出来る点にある。つまり、「Jag Dollars」をレジでの引き換えとすることで、今までは給油口で全て購買活動を終えていた層をコンビニエンスストア内に誘導することに成功したのである。

 このように、単にスポンサー権を与えるだけでなく、スポンサーシップを通じて企業の抱えている経営課題にソリューションを提示していくことこそ「アクティベーション」に他ならない。



選手のもう一つの顔とは? (2005.07.01)

 一流選手になればなるほどフィールド上と同じかそれ以上に、フィールド外での振舞いにも世間からの注目が注がれますよね。これは洋の東西を問いませんが、ことアメリカでは、地域社会に積極的に貢献していることが一流選手の条件として考えられているようです。

 現在、NBAのニューヨーク・ニックスでプレーするビン・ベーカー選手も、積極的に地域貢献を行う選手の一人です。コネチカット州で育ち、同州にあるハートフォード大学を卒業したベーカー選手は、NBAに入り、ミルウォーキー・バックス、シアトル・スーパーソニックス、ボストン・セルティクスといくつかのチームを渡り歩きながらも、シーズンオフには必ず自分の故郷に戻り、バスケットボールクリニックやキャンプを開催して、地元の子供たちにバスケットボールの楽しさを伝えたり、クリスマスにプレゼントも買ってもらえないような低所得世帯の恵まれない子供たちに、プレゼントを届けて家族と共に休日を楽しむ経験をしてもらうといった慈善活動を行っています。

写真:バスケットボールクリニックの模様


 しかし、イベントの準備や告知、当日の運営など全てを選手一人がやるのは大変ですし、そういったイベントを年何回も行うとなれば、人手や専門知識も必要となってきます。こうした問題を解決するために、多くの選手は慈善活動を行うための専用基金を設立し、そこに専任のスタッフを雇っているのです。

 ベーカー選手もその例外ではなく、先ほどご紹介したクリニックなどは、全て「Stand Tall Foundation」(“しっかりと立とう”基金)が企画・運営しています。アメリカには、「レシプロシティー」(Reciprocity=相互交換・相互利益)という考え方があり、「お互いが与え合い、高め合う」ことが一つの美徳とされています。ベーカー選手の様々な試みにも、「自分を育ててくれた地元コネチカットに還元する」という、この「レシプロシティー」の考え方を垣間見ることができると言えるでしょう。

 ベーカー選手を育てた地元から、そのベーカー選手の還元により、第二、第三のベーカー選手が生まれる。こうした与え合い、還元しあうサイクルを作ることこそ、真の慈善活動と言えるのかもしれません。




ファンが喜ぶスポンサー 〜ただ広告を出すだけのスポンサーには飽き飽き? (2005.07.01)

 スタジアムやユニフォームに掲げられているスポンサー広告。スポーツもビジネスなのである程度はやむを得ないと思いますが、やりすぎるとかえって逆効果の気もします。海の向こうMLBでも日本の某新聞社のスタジアム広告が槍玉に上がりましたよね。

 そんな中、ファンにとってもメリットの多い?スポンサー企業がアメリカにありますので、その“思わずファンも喜んでしまう”おもしろ事例をご紹介したいと思います。

 そのファンにうれしい?企業はNFLのスポンサーになっているキャンベルスープ。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、いわゆる“缶詰スープ”のメーカーです。

 NFLは例年9月に開幕し翌年2月までスケジュールが組まれている秋冬スポーツの代表格ですが、秋も深まれば北部で開催される試合観戦時には寒さに震えることもしばしばです。そんな点に着目したキャンベルスープは、トレーラーを改造した移動試食車?を用意、試合会場に横付けし、来場したファンに自社スープを無料で配るというキャンペーンを展開しています。

写真:キャンベルスープのサンプリング@


写真:キャンベルスープのサンプリングA


 スーパーに買い物にいって試食を勧められ、そのまま思わず買ってしまった経験のある方も多いでしょうが、まさしくその“試食キャンペーン”を試合会場でやってしまうという発想、スケールの大きさ?を感じますね。




家族全員で楽しめるスタジアムの姿とは? 〜 ファミリー重視の米国スタジアム (2005.07.01)

 「野球観戦に行こうかな」と思っても、小さなお子さんがいらっしゃる場合、「うちの子はまだ小さくて長い時間じっとしていられないし、周りのお客さんにも迷惑かけちゃいそうだし・・・」と尻込みしてしまうこともあるかもしれません。アメリカでは、「スタジアムはただじっと座ってスポーツを観戦する場所である」という発想を覆したおもしろい仕掛けが随所に準備されており、小さいお子さんのいるご家族でも安心して足を運べるような工夫が凝らされています。

 MLBアトランタ・ブレーブスの本拠地ターナーフィールドのレフトスタンド後方には、アトランタに本社を置くCoca-Cola社のスポンサーの下「Coca-Cola Baseball Sky Field」と呼ばれるアトラクションスペースが設置されています。このスペースは、その名の通り雲の上からフィールドを見渡せるような高い位置に設置されたアトラクションスペースで、誰でも利用することができる眺めの素晴らしい「Coca-Cola Sky Box」や、本物のボールやバット、グローブで作られた「コーラの塔」、ブレーブスの選手にホームランが飛び出すと花火が噴射される「コーラ大砲」などが設置されています。

写真:Coca-Cola Sky Box



写真:「コーラの塔」(左)と「コーラ大砲」(右)

 さらに、このスペースには、子供たちがバッターボックスから一塁までのベースランニングや、ピッチャーマウンドでのマウンドさばきを体験できる「疑似体験ゾーン」も設置されています。

写真:疑似体験ゾーン

 また、MLBサンディエゴ・パドレスの本拠地ペトコ・パークでは、「Park at the Park」(=公園の中のボールパーク)のニックネームの通り、スタジアム敷地内のバックスクリーンの裏手に、子供がちょうど遊べる程度の広さのサブグランドが設置されており、試合前には球場係員が子供たちとワッフルボールを用いてトス・バッティングを行ったりもしています。横の芝生で覆われた小さい丘=ピクニック・ヒルには、子供の遊ぶ姿を見守る両親や、爽やかな日差しを楽しむカップルの姿などが見られるなど、まさに公園に遊びに来たような落ち着いた感覚を覚えてしまいます。

写真:外野席奥に見えるサブグラウンドとピクニック・ヒル

 もちろん、このサブグラウンドやピクニック・ヒルは、試合中も自由に使うことができるため、試合観戦に飽きた子供とお父さんが「じゃあちょっとキャッチボールでもしようか」といって席を立って気分転換することや、家族一緒に芝生の上でご飯を食べるといったこともできるようになっているのです。

 こんなスタジアムであれば、小さいお子さんがいても安心して家族で出掛けることができますね。

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