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【スポーツニッポン】メキシコを強くする"アステカの誇り"(2006年4月27日)

 初めてW杯を観戦に行った86年、わたしには世界最高レベルの試合を見るのと同じぐらい楽しみにしていたことがあった。

 アステカ・スタジアムに足を踏み入れることである。

 宇宙船のような外観。10万とも13万とも言われるファンをのみ込む巨大な観客席。絨毯(じゅうたん)のように美しく刈られた緑の芝生。サッカー不毛の地と呼ばれた当時の日本で生活していた大学生にとって、映像や写真で見るアステカは別世界のオブジェだった。

 実際にアステカの階段を上り、はるか眼下に広がる芝生を目にした時の感激はいまも忘れられない。後に訪れたジュゼッペ・メアッツァも、カンプ・ノ ウも、マラカナンも、アステカほどの感激は与えてくれなかった。多くのメキシコ人が信じて疑わないように、わたしもまた、アステカは世界最高のスタジアム だと信じている。


 当時、メキシコ人にとって最大のスターはレアル・マドリードでプレーするウーゴ・サンチェスだった。宗主国であるスペインでゴールを量産し続けた男の人気と注目度は、現在の日本でいうならば松井秀喜や中田英寿にたとえられるかもしれない。

 つまり、あのころのメキシコにとっては、欧州でプレーする方が、自国でプレーするよりも価値があったのである。

 時代は変わった。

 今回のW杯に出場するメキシコ代表のほとんどは、自国のリーグでプレーする選手たちである。それだけではない。アルゼンチンやブラジルを含めたラ テンアメリカの才能が、どんどんとリーガ・メヒカーナに加わっている。欧州へ旅立つ準備の場でしかなかったリーグは、ある種のあこがれと尊敬を勝ち得るこ とに成功したのである。

 わたしはそこに、アステカの意味を見る。

 世界最高のスタジアムは、それだけで観客や選手を引きつける魅力を持っている。中田英寿がイングランドのチームを選んだ理由の1つには、発祥の地 ならではの独特の雰囲気があったという。同時に、世界最高のスタジアムを有しているという誇りが、リーグのレベル向上にもつながっていく。

 4年前、日本はそういうスタジアムを造ろうとはしなかった。この国のサッカー界には、ファンが胸を張って「世界一だ」と断言できるものが何一つない。選手の海外流出に歯止めがかからないのも、むべなるかな、である。


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