ヤンキースがキャンプを張っていたフロリダ州タンパのレジェンズ・フィールドは、マウンドの勾配(こうばい)からアンツーカーの配合に至るまで、できる限り本拠地ヤンキースタジアムに近づけるべく努力がなされているという。松坂が3度目のオープン戦登板を果たしたスタジアムは、手をのばせばメジャーリーガーに触れることができそうなほど選手との距離が近かった。
徹頭徹尾、選手のため。あるいは、ファンのため。メジャーリーグのスタジアムはもちろんのこと、マイナーリーグ用のちっぽけなスタジアムまで、その哲学は行き渡っていた。レジェンズ・フィールドの道路を挟んだ反対側には、アメリカンフットボール用のレイモンド・ジェイムス・スタジアムがあったが、こちらも、外から見ただけで中に入ってみたくなるようなスタジアムだった。
日本のスタジアムは、誰のためにあるのだろう。
帰国してすぐ、悲しくも情けない話を聞いた。将来のJリーグ昇格を目指すあるクラブが、サッカー専用スタジアムの建設を立ち上げようとしたところ、すぐさま他の競技団体から横やりが入ったというのだ。
「陸上トラックのついていないスタジアム建設などとんでもない」
野球にしか使用することのできない野球場の建設に反対の声はあがらずとも、サッカー専用競技場となるとこうした声がでてきてしまうのは、この国にサッカーというスポーツが染みていない証でもある。ただ、いまや西欧はもちろんのこと、経済的に後れをとっていた東欧でさえも、次々とサッカー専用スタジアムの建設が進んでいることを思うと、この国のスポーツの貧しさを痛感する。
いまや、サッカーはプロスポーツである。プロである以上、スタジアムは舞台装置である。どれほど素晴らしい歌舞伎役者が演技をしたところで、舞台がお粗末であればその魅力は半減してしまう。
スタジアムは、徹頭徹尾、選手のため、あるいはファンのためのものでなければならない。
トラックのついたサッカー場は、スタジアムとして魅力的だろうか。選手にとって、力となるだろうか。そして、サッカー場のおまけとして作られたトラックは、陸上競技の選手にプライドをもたらすだろうか。選手のためでもファンのためでもなく、単なる縄張り争いとしか思えない騒動を見聞きするたび、日本人選手の海外流出はとまらないだろうなと痛切に思う。



