ペレの完璧(かんぺき)なへディングシュートをイングランドのGKゴードン・バンクスが指先ではじき出す。いまなお「史上最高の大会」とも言われる70年W杯メキシコ大会におけるハイライトの一つである。
だが、ブラジルがこの大会で優勝を飾り、その後もW杯の常連であり続けた一方、イングランドは暗黒時代に突入する。74年、欧州予選敗退。78年、同じく欧州予選敗退。ケビン・キーガンらを擁し、12年ぶりに出場したスペイン大会でも2次リーグ敗退という体たらくである。
だが、どん底に陥った代表チームとは裏腹に、クラブ・レベルにおけるイングランド・サッカーは輝きを失わなかった。イタリアやスペイン、ドイツといったW杯の常連国の強豪クラブがレベルの高い自国の選手に加え、世界各国から助っ人を呼び寄せていたにも関(かか)わらず、基本的に英国4協会出身の選手で構成されることがほとんどだったイングランドのクラブは欧州カップにおいて無類の強さを発揮し続ける。70年代の後期から、あのヘイゼルの悲劇(85年)まで、チャンピオンズ杯はまさしくイングランドの独壇場だったといっていい。
なぜ、あのころのイングランドは強かったのか。イングランドにおけるスターはいても、世界的名選手はほとんどいなかったイングランドが、なぜ世界的名選手を揃(そろ)えた他国のクラブに負けなかったのか。答えの一つに、この国におけるカップ戦の重みがあげられる。
ご存じの通り、イングランドではリーグ戦と平行して2つの国内カップ戦が行われている。そして、2つのカップ戦は、他の国とは比較にならないほどの注目を集めて行われている。コッパ・イタリア、コパ・デル・レイ、ドイツ・カップ――その他の主要国で行われているカップ戦が、ヘタをすれば数千人にも満たない観衆の中で戦われることもある中、イングランドだけはリーグ戦に変わらぬ注目を集めている。国内リーグの優勝と国内カップの優勝。もし各国の選手にどちらを望むかというアンケートをとってみたら、イングランドだけは、後者をあげる割合が突出して高くなることは間違いない。
いまや、イングランドのサッカーは完全に暗黒時代を脱し、プレミアは世界でも屈指の資金が潤沢なリーグとなった。駒が揃わなくても欧州カップ戦では強かったイングランドが、金棒を手にしたのである。プレミアが世界最高峰のリーグであるかどうかはともかく、今後もCLにおけるイングランド勢の強さは続くだろう。フランス人である欧州サッカー連盟の会長が、CLの枠組み変更を訴えるのも無理はない。



