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週刊朝日

「週刊朝日」(4月16日号)から金子達仁による新連載「勝ってみやがれ!」がスタート。
南アフリカW杯に向けて17回にわたって連載する予定。

Audi magazine (11/2009)

 彼らは、国家よりも早く復権を果たした集団だった。
 世界史における一時期、スペインが世界に冠たる存在であったのは紛れもない
事実である。だが、決して短くはなかった栄華の時代は、イギリスによって打ち
のめされ、ナポレオン・ボナパルトの時代になると「ピレネー山脈の向こうには
アフリカがある」と言われるまでに衰退してしまった。
 21世紀の現在でさえ、アルゼンチンにはこんなジョークがある。
「イギリスが宗主国だったら、我々の国もせめてオーストラリアぐらいの金持ち
にはなれたのに」
 アルゼンチンにとって、現代のイギリスは不倶戴天の敵である。鉄の女と言わ
れたサッチャーの決断によって、フォークランド諸島は奪われてしまった。にも
かかわらず、こんなジョークが交わされるのは、多くのアルヘンティーノが、か
つての宗主国スペインに絶望し、かつ侮蔑しているからでもある。スペイン人を
けなすジョーク集は、いまも昔もこの国ではコンスタントな人気を誇っているの
だ。
 レアル・マドリードは、そんなスペインそのものといっていいクラブだった。
 国際サッカー連盟が選ぶ「20世紀最高のクラブ」に選定されたことは、この
チームのファン、マドリディスタにとっては大いなる誇りである。だが、宿敵と
して知られるFCバルセロナのファンは、そんな彼らをあざ笑ったものだった。
「ところで、最近はどうなんだい?」
 確かに1950年代のレアル・マドリードは強かった。ヨーロッパ・チャンピオン
ズカップ(現チャンヒオンズ・リーグ)における5連覇は、おそらくは永遠に破
られることのない偉大な記録である。しかし、彼らが5連覇を達成した当時、大
会の注目度は現在とは比較にならないぐらい低かった。誕生したばかりの大会
に、決して少なくはない数のクラブが拒絶反応を示したのである。1955年に開催
された第一回大会に出場したのは、わずか16チームにすぎなかった。
 案の定と言うべきか、ヨーロッパの列強がこの大会に対して情熱を抱き始める
ようになると、レアル・マドリードはその熱量と反比例するかのように地盤沈下
の道を辿っていく。多くのマドリディスタは断じて認めようとはしなかったが、
その有り様にかつての無敵艦隊をダブらせる人は少なくなかった。
 だが、彼らは踏みとどまった。そして、彼らを踏みとどまらせたのは、宿敵の
躍進だった。
 ヨーロッパでのタイトルからこそ遠ざかったものの、スペイン国内におけるレ
アル・マドリードの強さは際立っていた。独裁者フランコの寵愛を受けたクラブ
でもあったがゆえ、アンチ・マドリディスタからは「ヤツらは審判の助けを受け
て戦っている」と陰口を叩かれることもあったが、彼らがスペイン最強にして最
大のクラブであることに変わりはなかった。
 ところが、20世紀も押し詰まった90年代に入ると、流れが変わってくる。名将
ヨハン・クライフを監督として迎えたバルセロナが4連覇を達成したばかりでな
く、その洗練されたサッカーが「世界で最も美しいフットボール」「ドリーム
チーム」などの称賛を世界から受けるようになったのである。
 それは、強かったころのレアル・マドリードでさえ受けられなかった称賛でも
あった。
 残してきた実績において、レアル・マドリードを凌駕するクラブはスペインの
みならず、ヨーロッパ中を探しても見つからない。しかし、
彼らは記録に残るチームではあっても、記憶に残るチームではなかった。世界の
サッカーに衝撃を与え、サッカーの新しい潮流を生み出したことはなかった。
 それを、あろうことか宿敵のバルセロナがやってのけたのである。
 必然の逆襲が、始まった。
 牽引車となったのは、マドリッド生まれの有能なビジネスマン、フローレン
ティノ・ペレスという男だった。子供のころから熱狂的なマドリディスタだった
という彼は、念願かなってチームの会長に就任すると、すぐさま古式泰然とした
しきたりの残るサッカー界にビジネスの手法を持ち込んだ。
「優れた商品を作ろうと思えば、優れた機械が必要だ。設備投資を渋る企業に躍
進のチャンスはない」
 彼の考える「優れた機械」とは、言うまでもなく「優れた選手」のことだっ
た。強大な資金力に任せて世界中から選手を買い集めるやり方には批判も集まっ
た。それでも、ジダン、ベッカムらを擁したチームはスペイン国内でバルセロナ
から覇権を奪い返したばかりか、ヨーロッパの頂点にまで駆け上がる。02年、
ヨーロッパ・チャンピオンズリーグを制したチームは、「銀河系軍団」という
ニックネームまで冠せられることになった。彼らは、栄光に包まれた長い歴史の
中でも初めて、記録だけでなく記憶にも残るチームとなったのである。
 そしていま、レアル・マドリードは「銀河系軍団」をも超えるチームを作り出
そうとしている。
 イングランドからは稀代のドリブラー、クリスティアーノ・ロナウドがやって
きた。イタリアからは天才の呼び名を欲しいままにするカカーが加わった。会長
に復帰したペレスが投じた資金は、200億円とも300億円とも言われている。彼ら
が一同に会するトレーニング場には、入場が有料であるにも関わらず、世界中の
ファンが詰めかけてくる。
 憧れのスターを一目みたい──そんな思いで集ってきたファンの前を、アウディ
R8が、Q7が、TTクーペが駆け抜けていく。ハンドルを握るのは、むろんレ
アル・マドリードのスターたち。○年以来、アウディは再び世界の頂点に立とう
としていたレアル・マドリードをスポンサードし続けているのである。
 奇しくも、レアル・マドリードの復活と歩を合わせるかのように、スペインか
らは多くの才能が世界に飛び立つようになった。ゴルフ、テニス、映画──。
陽は、また登る。
再び輝かしい未来を夢見るようになったスペイン人にとって、アウディを駆る
「新・銀河系軍団」は、復活のシンボルでもあるのだ。




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